指を絡ませる  


指先の戒めを投げ捨て、絡めあう指。
 軽い音は絨毯に吸い込まれてゆく。
 繋いで、堕ちて、
 そして、舞い上がる時も指を絡める。
 伝わる熱に、震えが走り、この上なく
 相手のことが、伝わってくる不思議。
 快感とは別の高ぶりは、
 想い合っている相手だからこそのものだ。
 好きにならなければ、愛も芽生えず
 狂うこともなかった。
 
 奪い、壊したいあなたのすべてを。
 そうすることで、彩る世界を変えられるのならば。
 強く、指を絡めて、繋がる。
 かすれた吐息が耳に伝わってきた。
 鋭い衝撃に、しなる細い肢体を抱きしめ返し愛しさを伝える。
 淫らに甘く急き立てる声に、衝動が加速する。
「ジュリア……! 」
「……イアンっ」
 頬に伸びてくる指。
 しなやかに長いそれは、顎を伝い降りた。
 揺れる二人の世界は、光彩をかき、
 それでも光を求めてさまよい続ける。
 出会った日から貴女に焦がれ、欲しいと希った。
 あの日の少女は、孤独と悲しみの中、
 少しずつ心を開いていった。
 固く閉ざしていた心を解きほぐすのには時間がかかったが、
 それ以上に手に入れたものは大きかった。

 俺だけを見てくれる湖の底の青。
 神秘的な輝きが、闇の中で青い光を作り出す。
 お互いの瞳に捕らわれて逃げるすべなどない。
「ジュリア」
 名を呼ぶとあどけなく首をかしげた。
 シーツの上で投げ出された腕に触れ、指を絡ませる。
 外した指輪の痕に、そっと口づけた。
「貴女を俺だけのものにしたい」
「一緒に逃げる? 」
 笑った彼女は、悪戯をしかけるみたいに、体を丸め腕から逃れた。
 ベッドに縫い止めて、一層きつく指を握りしめたら、恨めしげに睨んでくる。
「触れられたくなかったわ……本当は」
 首に腕を絡めてきた。
耳元に落ちた囁きは、どくんと心臓を波打たせる。
「どうして? 」
 唇を歪めた様子に、胸が軋んだ。
「その先を望んでしまうから」
 頬に落ちる一滴を唇で掬う。
「いっそ望んでくれたらいい。
 ……望むことから始まるのでしょう」
「一緒に方法考えましょう。最後まで諦めないで」
「ああ」
 強い口調に、身震いがするようだ。
なんて美しく気高い魂の女性だろう。
 抱きしめて口づける。
 真の救いを求めているジュリアに、俺は未だ何もできずにいた。
 君さえ笑ってくれるのなら、他を闇に突き落とすことさえ厭わない。
 あの、強欲で高慢で、彼女を長い間独占してきた最悪の下種を
 憎んでも憎み切れないほど憎悪している。
 決して、そんな素振りなど見せぬよう
忠実な執事としての態度を貫いて、  見えない場所で彼女を抱きしめる。
「私たちがこの先も続いていて、
 永遠の成就を誓う日が来たら……」
 その先まで言わせるわけにはいかない。
 絞り出すような声を口づけで塞ぐ。
 抱きしめて、熱を与えて君の中に
 俺のかけらを残してゆく。
 形を成すことがなくても。
 だからこそ、求め合えるのだから。

 
 明日の朝は、素知らぬ顔をしていなければならない。
 執事として、最愛の主人に尽くす。
 傍にいられることが幸せだと言い聞かせる。
 ここにいれば、あなたを見つめていられる。
 絡めあわせた指に灯る熱は未だ冷めない。
 手と手を取り合い十字を切る。
 すべてが絵空事に消えぬように二人が浅はかに願う。

 真実の意味では神を崇拝していなかったけれど。
 暖炉の火が煌々と燃えている。
 その赤に抱かれるように、意識が溶けていった。
 



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