ラブホテル



 ラブホに行く約束を遂に決行する日が来た。
 ドキドキというよりもワクワクと胸が踊ってる。
 だって、初めて行くんだもん。
 いつも砌の部屋だし、……って何考えてるの。
 考えを遮るように首を振って、チェストから下着を取り出す。
 この間、買いに行った勝負下着(上下セット)。
 ホテル代は、砌が出すって言ってくれたから、私は砌の為に演出してあげる。
 チェリーがプリントされた下着はとっても可愛くて、着替えた自分を
 思わず抱きしめちゃった。うわーん変な女がここにいる。
 白のカッターブラウスにミニの黒プリーツスカート。
 寒いかなと思いとりあえずカーディガンも纏って部屋を出た。
 丁度いいタイミングで階下からママの呼ぶ声。
「明梨、砌くんよー」
 やや間延びした喋り方。
 周りからそっくり親娘と言われてたりするうちのママは砌ママより一つ若い。
 二人は、映見ちゃーん、翠さーんの仲であり、かなり頻繁にお茶したりしている。
「うん」
 階段を下りるとママは激笑顔で立っていた。玄関ポーチにいるのは砌。
 白いシャツに薄い赤のネクタイ、チェックのズボンを履いている。
 やだ私よりかわいいじゃない!
 ぼーっと見惚れていると砌がぽんと頭に手を置いてきた。
「どうかしたか?」
「だって合わせてないのにすごくない?」
「歳取ったら着れなくなるだろ。今の内に色々遊ばないとな」
「あ、そういう考え方もできるのか」
 ぽん、と手を叩くと砌は、何故か顔を赤らめていた。
「……こんなことならこの格好するんじゃなかった」
「何で?」 
「ペアルックなんて恥ずかしいだろ!」
「私は嬉しいけどなー。砌めちゃくちゃ似合ってるし!」
「お前こそ」
「はいはいお二人さん、目の前でラブモード繰り広げられたら
 目のやり場に困っちゃうわ。ふふ、続きはおでかけしてからにしたら?」
 ママが後ろから見ていることも忘れて二人で何処かに行っちゃってた。
「は、はい」
 砌は顔を赤らめて笑っている。
「「じゃあ行ってきます」」
 二人同時に行ってドアを開ける。
 柔らかい陽射しが気持ちいい。
 春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。
 ふわあと欠伸する私に軽いげんこつが振ってくる。
「目を覚ませ、寝ぼけ娘」
「眠気がぶり返してきた」
「俺は運転するんだから助手席で寝とぼけるなよ」
「案外心狭いんだね」
「一睡も出来なかったんだ!」
「え!?私はぐっすり8時間安眠したよ!」
「それでなんでまだ眠いんだよ」
「春のうららかな陽射しに包まれてると眠くなるのが十代乙女なの」
「二十代になっても言ってそうだな……」
 砌は嘆息しながらリモコンキーで車の鍵を開けた。



 「あれ取って!」
 明梨が指差す場所にはくたっとしているパンダのぬいぐるみ。
 お世辞にも可愛いとはいえないがよく見れば愛敬があるか?
 明梨の趣味は、何年経っても理解できない。
 馬鹿にしている顔に見えたのか明梨が、不満そうに頬を膨らませている。
「砌には私の美的センスが分からないんだね」
「分かりたくねえよ」
「分かってくれなくていいからさっさと取って!」
 急かされ、俺はボタンを押した。
 レースゲームなら得意なのに、どうもこの手のは苦手だ。
 クレーンの動きを見てるとちょっと苛々するんだよな。
「もうちょっと右!」
 興奮している明梨。
 後々の為にもここで頑張らねば。
 ウィーン。クレーンが目的のぬいぐるみを掴む。
 ぬいぐるみはしっかり固定されクレーンによって、穴に落とされた。
「「や、やったー!」」
 嬉しさのあまり公衆の面前で手と手を取り合い喜びを交わした。
 これしきのことでオーバーだろうが関係あるか!
「ありがとう、砌」
 明梨はほくほく顔だ。
 そんな目で見上げるな。ただでさえ今日はいつも以上に可愛い格好してるのに。
 照れ隠しに俯くとそのまま明梨の手を掴んで歩き出す。
 強く引っ張ったわけじゃないので勢いでつんのめったりはしない。
 上機嫌な顔を横目に見やれば自分まで嬉しくなった。
 大体ゲームセンター、映画、食事、俺の家って感じで、
 夕食までに明梨を家に送っていく。こないだは大胆にも明梨を泊めてしまった。
 母さんにもからかわれて朝から騒がしかったな。
「撮ろう」
 ぐいと腕を引っ張られて、カーテンの中に入る。
 明梨がフレームを選ぶ。即決だ。
 二人、顔を近づけた。どうせならと俺は頬に唇を寄せた。
 すかさずボタンを押す。
「あっ」
 機械の明るい声が出来上がりを知らせる。
 目を見開いて驚いている明梨の顔。中々いいかもしれない。
「もう砌ってば」
「頬までが限界なんだよな」
 次は二人でキスに挑戦するかと毎回思うんだけどさ。
「誰にもあげれないじゃん!友達にいっつもあげてるのに!」
 一応、恥じらいはあるのか。
「場合によれば迷惑だぞ」
「呆れるくらい仲良いねーって羨ましがられてるよ」
文字通り呆れられてるんだよ。
 俺も正そうとか直そうとは思わないけど。
「俺はお前の性格が時々羨ましい」
 明梨は?を顔に貼り付けている。分からなくていい分からなくて。
 プリクラも撮り終えたのでコンピューターゲームの台の前に座った。
 対戦式のパズルゲーム。右に俺が座り左に明梨が座る。
 ガタンと椅子を引き、前の方に寄せた。
 暫く会えなくなるから今日は他の事は忘れてぱあっと遊ぼうと
 今日のデートを計画した。ラブホだけが目的じゃないのだ。
「負けないからな」
「私こそ砌を勝たせないからね!」
 闘争心を剥き出しにする俺たちは今日も燃えていた。
15分後ゲームは終了した。
 やっぱりゲームといえど勝つと気分がいい。
「むきになりすぎ。大人気ないよ砌」
 負け惜しみを口にする明梨。
「お前が言うな」
「くうっ!」
「カーバンクルのぬいぐるみ取ってやるから機嫌直せよな」
「カーバンクルは嫌!さっき散々邪魔されたの思い出すんだから!」
 地雷を踏んだか。
「じゃ、ミッフィーのぬいぐるみで手を打て!」
 口元が×印のあの有名なうさぎだ。確か好きじゃなかったか。
「絶対取ってね」
 ミッフィーの言葉を聞いた瞬間、明梨は目を輝かせた。
 やっぱ明梨にはパンダよりうさぎが似合うよな。
再びUFOキャッチャーの所に行き、ぬいぐるみ捕獲に乗り出した。
 微妙に意味が違うが、俺にとっては捕獲のようなものだ。
 硬貨を入れてスタートボタンをポチッと押す。
「ファイト!」
 横から飛ぶ変な応援。気が散るだろ!
 たかがぬいぐるみを取る為に浪費するわけにはいかない。
 妙な意地が俺の胸の中には芽生えていた。
 絶対100円で取ってやる!
 明梨がふいに大人しくなった。視線だけは強く感じる。
 形相まで変っていることなんて知る由もなく、俺はミッフィーを取る為に燃えまくっていた。
 目当てのぬいぐるみが穴の中に落ちたのを見た瞬間ガッツポーズ。
 口には出さず心の中でよっしゃあ!なんてちょっと自分らしくない台詞をつぶやく。
「……そんな執念燃やさなくても」
「嬉しくないのか」
 しょげた口調になってしまった。
「嬉しいんだけどさっきの砌の迫力にびびっちゃった。
 真剣な時って凄みがでるんだね」
 間の抜けた否緊張感に欠けた台詞に、シリアスなムードなんてどこかに吹き飛んだ。
「悪い」
「うん頑張ったね砌」
「ははは」
 頭を撫でられたよオイ。



「うっわー可愛い!!」
「この部屋にしてよかったみたいだな」
 パネルで選んだ部屋は、大当たり。
 可愛くておまけに綺麗だし二人してはしゃぎ回っていた。
「豪華だよねー」
「値段も高くないよな」
 お値段の割に豪華。
 ラブホテルにも当たりはずれがあるらしいけど、ここは大正解だ。
 遊べるアイテムもたくさんあってさっきから色々見回っている。
 バスローブ、使うのかな。初だよバスローブ!
 昼食食べて、現在は午後3時。
「そういえばお茶してないよね」
「まあたまにはいいだろ」
 よくない!と言おうと思ったが、言葉を喉の奥に押し込めた。
 デートでお茶をすることが習慣になっちゃってるから違和感があるのはしょうがない。
 私は部屋の隅っこにある冷蔵庫を開けた。
 ああ、ここの飲んだら高いんだろうな、いやいや関係ない。
「砌、どれがいい?ピンク、青、色々あるよ」
「アルコールはいい」
「え、本当だカクテルバーって書いてある」
「会話のテンポ悪」
 ボソっとつぶやく砌。ツッコミ?
「コーラとミネラルウォーターと何だろこれ。一本しかないし」
 リ○ビタンDなんかに似たような茶色の瓶。
「……男が飲むものなんだよ」
 きょとんと首を傾げてしまった。
「砌専用ってこと?じゃあはい」
「飲んでもいいけど明日のお前がどうなっても保障しない」
「わけわかんない」
 砌は顔を真っ赤にしている。耳や首まで!
「コーラでいい」
「私はミネラルウォーターにしよ」
 コーラみたいなきつい炭酸は苦手。微炭酸は好きだけど。
「もっといかがわしい雰囲気の所かと思ってた」
「いかがわしいことをする場所だ」
「その考え方がいかがわしいと思います先生」
「先生って誰だよ」
「あはは」
 お茶と称して飲み物を口にしながら他愛もない会話をする。
 一緒にいられるだけで満足だけど、側にいるともっと欲しくなるんだ。
 言葉では満たせないものを貪欲なまでに求める。
 知ってしまってから、私たちは今までと変らないようでいて
 どこか変わったと思う。
「何す……」
 砌は自分のコーラを飲み干した途端人のミネラルウォーターを奪った。
 まだ飲み足りないのかな。欲張りなんだから!
 そんなごくごく勢い良く飲んで! うわ、なくなるよー。
 ちびちび飲まずに、一気飲みしておけばよかった。
 豪快な飲みっぷりのせいで顎から、首へと雫が伝う。
 どこか妙な気分で私はそれを見つめる。
 彼もずっとこっちを見ていた。
 男っぽい眼差しに射抜かれてごくんと息を飲み込んだ。
 なんて、目で見るの。
「明梨」
 来いよと言葉の最後に隠れているのを感じ取り、砌の膝に乗った。
 ふわっと腰に腕が絡み、唇が覆い被さる。
 流し込まれてゆく液体。水なのにお湯みたいに熱い。
 喉が焼けてしまう感覚がした。
 舌が、すぐに絡められると痺れが走った。
 執拗に、歯列をなぞり歯茎を舐め上げられ、鼻にかかった声が漏れてしまう。
 こちらからも砌の咥内に舌を入れて彼と同じことをした。
 絡め合わせれば息が上がる。荒い息をつきながら砌の肩を掴む。
 視界が霞んだ。霧がかかってるわけじゃなくて、目が潤んでるんだ。
 名残惜しいと互いに感じているけれど一旦唇を離すとかかっていた白い橋がぷつんと切れた。
 ぺろっと唇を舐める仕草から目を離せない。
 私は肩を上下させ呼吸を整えてながら、砌を見ていた。
「どうせだから特別なことしたいよな」
 掠れてる声は色気を含んでいて、聞くだけで心臓が鼓動を早めた。
「……特別って」
 ああ決まりきった言葉しか返せない自分がやだ。
 その時ふと視界の隅にぺしゃんこのビニール?らしきものが目に入った。
 なんだろ。こんな部屋の中にビニールプールなんてないよね。
 私が口を開きかけた時砌も同じ場所を見ていた。
 勘違いでなければ、目と口の端が笑ってた気がする。
 悪戯っぽく楽しそうに。
ベッドから降りて、そのビニールの物体の所までいった砌は、
 栓を開けて膨らませ始めた。
 あんな大きいの膨らますの大変じゃないの。
 交代って言ってくるのを待ってよう。
 とか、考えてる間に砌はビニールの物体もといボールを膨らましてしまった。
 その大きさと形にびっくりして声を上げずにいられない。
「な、なにこれ!」
「小道具の一種だろ」
「そりゃそうだよね。ここラブホだし」
 頷いて納得した私だけけれど、詳しくは知らない。
 砌と違ってそんな知識ないもん。
「砌、使い方知ってるんでしょ」
「お前も想像すれば分かるって」
 うわしっかり肯定だ。
「投げれないよね、おっきいし」
「実践して見ればもうばっちり、知ることできるな」
 砌が腕を引くからよろけながらついていくことになった。
 まだふわっとした感覚が残ってるのだ。
 とりあえず二人でそのボールの上に乗ってみた。
「へえ」
「二人乗っても安定したまま?」
「そういうことだって」
 あっという間に視界が、傾いた。
 私の目に映るのは部屋の天井じゃなくて、砌の顔。
 さっきのは誘導作戦だったのかしら。意外に策士ね!
 横にベッドがあるのに、ボールの上にいるなんておかしい。
 楽しくなって足をばたばたさせてると砌が足を絡めてきた。
 首筋に顔を埋めてくる。髪の毛くすぐったいよ。
 そっと吸っては小さく噛まれると舌と唇を交互に感じた。
 啄ばんでは離れる度に赤い華が、咲いてゆく。
 一見すれば傷痕みたいでも、彼と感じる痛みなら構わない。
 飴玉よりも甘く胸に溶け込むから。
 カーディガンのボタンを外す指に気づき、私は袖から腕を抜いた。
 二人の目が合って唇を重ねる。
 啄ばむように唇を合わせては視線を交わす。
 この触れあい、優しさを感じられて好きなんだ。
 私の気持ちも砌に伝わってるよね。
 だってこんなに砌の気持ちが押し寄せてくるんだもの。
 砌が次の行動に移る前に自分からブラウスのボタンを外すと、
 彼は露わになった下着に、目を瞠った。
「可愛いでしょー」
「色気はないけどな」
「ぐさっ」
 ひ、ひどい!
「可愛すぎて抑えがきかなくなるかも」
 さっきよりも格段、こっちを求める眼差しが強くなった。
 砌が自然にブラのホックを後ろから外し、背中を指先で辿った。
 ぴくんと背が跳ねて自分でも驚く。
 ざわざわってした。
「ふ……っ」
 背中には口づけが降り、胸元には手で触れられる。
 ふくらみ全体を包み込んで、形を変えて。
 背中と胸から寄せられてくる快感に、体が震えだす。
 もっと触れていいよ。
 前かがみになった砌は後ろから胸を掴み口に含んだ。
 舌を突き出したり、転がしたりして、吸い上げる。
 歯を立てられてあの感覚が強くなった。
 駄目だ何も考えられない。
 今日の砌はいつも以上に……。 
 体の力を失い、ボールの上に背を凭れさせた。
 浅い息を吐き出しながら両腕を投げ出す。
 砌はシャツをぱさっと脱ぎ捨ててる。
 細いけど、筋肉もちゃんとあるんだよね。
 私のこと抱きしめられるほど頼りがいあるもの。
 素肌と素肌が触れ合うとあったかい。
 こうやって包まれるとすっごく安心するんだ。
 指が下降し、内股へ。
 あったかい手が冷たい素足に触れると、一瞬びっくりする。
 下着の上で指を動かして煽る。
 下着の上からでも濡れているのが自分でもわかった。
 微妙な位置で指が動くからむず痒い感覚にもてあそばれてじれったくなる。
 瞳に雫がたまってるのを見た砌が目元にキスをした。
 目に当たるか当たらないか微妙な場所を舐められ、ぱちぱち瞬きをした。
 砌は私の下着を引き下ろした後、膝をついた格好で、秘所に腕を伸ばした。
 潤いきったそこを撫でて全体に伸ばすように手のひらを動かす。
 私は腕を伸ばして砌の髪に触れる。
 かくんって頭が下を向いたと思ったら、秘所に舌先が当てられていた。
 舌で蜜を吸い取るみたいにするから痺れが走る。
 奥から疼いてる。
 とっくに体全体が火照って色づいていた。
「んん……っあ!」
 舌が、泉の奥へと侵入した瞬間、頭の中が白く濁った。



 胸が上下してるのを意識すると恥ずかしい。
 部屋が静かな分はあはあという声がよく聞こえる。
 砌に聞かれて見下ろされてるかと思えば逃げ出したいという気持ちが、
 起きたりもするけど、早く溶け合いたい気持ちの方が強いから、羞恥なんてぱって消えちゃうの。
 自分の準備をしている砌を目の端に捉える。
 見たくないとか思わないから不思議だ。
 恥ずかしいことは恥ずかしいのに、嫌じゃない。
「いいよ、来て」
 視線で合図する。
 砌が私を欲しいって思ってるのと同じくらい私も砌が欲しいんだ。
 唾を飲む音とともに封を切る音がする。
 ぼやけた視界の中で彼が準備を整えているのが分かる。
 足を開くと腰を腕で固定された。
 秘所に宛がわれたそれがゆっくりと裡へ入ってくる。
 砌は奥まで来た所で一旦動きを止めると私の体をゆっくりと抱き上げた。
 背中に腕が回されぎゅってされて笑顔になる。
 抱っこされるのは一体感があっていい。本当に二人が一緒になってるって思うもの。
「大好きだよ、砌」
 こっちからも腕を回してしがみつく。
「俺も明梨が大好きでしょうがない」
「うん」
 砌が腰を動かし始めた。
 ボールに身を沈めると妙な感覚を生み出している気がした。
「な、なんか変」
 思わず口に出すと砌は、目を細めた。
「やみつきになりそうだろ」
「え……うん」
 即答してしまった。
 座っただけの時は安定してたはずだ。
 だって、こんなのって!
 ボールのせいで浮いたり沈んだりしてるのに、砌の動きが激しいように思えてくるのだ。
「あ……んっ……は……あっ……ん」
 波が、来るのがいつも以上に早い。
 押し流される感覚に不安になって砌の腰に腕を回して掴まった。
「明梨……っ!」
 砌が眉間に皺を寄せた。
 一気に動きを速めていく。 
「あああっ……ん!」
 はあと息を吐き出すと同時に砌は私の中へ熱も吐き出した。



 ベッドはちゃんと一般的な使用法で使われることになった。
 ちょっと眠ったら、ここを出て夕食を食べに行こう。
 数時間で帰らなければいけない点はホテルは不便だが、
 貴重な時間が過ごせたので、よかったと思う。
「おやすみ」
 眠り姫は繋いだままの指先を離してくれそうにない。
 笑みがこぼれる。
 髪を撫でて、体を抱きこんだ。
 この愛しさだけは、ずっと変らないんだろうな。
 出会った頃よりも深まった想いがこの胸を焼いていた。


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