黒衣の中に包まれて、身動きが取れない。
 ぎゅっと胸にしがみつく。
 広い背、細身なのに適度な筋肉を備えた胸。
 いとおしい彼のにおい。
 グローブをしたままの掌に触れられる度、微妙な感覚で震えてしまう。
 漆黒に染め上げられている視界の中で何度となく登りつめる。
 もっと深く、あいして、私だけの黒い魔法使い。
 意識が焼き切れる寸前で引き戻されては、あいされる。
 胸をはだけて、ドレスの生地の間から足を露にしている。
 クライヴもクライヴで黒衣も纏ったままだ。
 みだらな格好に異常に感じてしまっている。
 恐怖と安堵の狭間にある充足感の中で、揺らめいている。
 わたしもどうかしてるの。
 本能のままに、愛し合うことを厭わないなんて。
 きっかけは何だったかしら。
 微妙な空気だなって思ってたら、胸元に顔を埋めるクライヴがいて。
 あっという間だった。
 決してなし崩しではないのだけれど、キスで感じてしまって、
 潤んだ眼差しを向けてしまったのだったかしら?
 翻弄されすぎて分からなくなった。
 あなたは火をつけたのはお前だと言ってのけるんでしょうね。
 お願いだからあまり私の顔は見ないで。
 きっと、はしたない表情でクライヴを求めているから、
 みっともなくて見せられないわ。



「クライヴ……っ」
 奥へと突き上げる。
 こみ上げる衝動のまま、ルシアの肌を攻め続ける。
 名前を呼んで達するその姿に、あおられ、また感じて、
 勢いが衰えることはない。
「その顔と声、普段の何倍もイやらしいな」
 かっと頬を染めて恥じ入りながらも体は素直だ。
 締めつけ、離さまいと絡みつく。 
 リズムを変えて、揺さぶり続ける。
 むせ返った空気に気づいているのかどうか。
「ルシア……お前の海の中で窒息するのも悪くない」
 深い、深い海は、熱く包む。
 結局俺を自由にしているのはルシアかもしれない。
「な、何言って……っ……」
 しゃがれた声は少女と呼べる年齢とは思えない艶を醸し出していた。
 背中に立てられた爪の力は、突き上げるほどに強くなり、
 いまや食い込んだままだ。きっと跡が残る。
「それも悪くないな」
 かみ合ってない会話のことなどルシアには気にする余裕はないのだろう。
 汗が散った体に唇を滑らせ、耳朶を噛むと
 甘い声とともに、泉から雫が湧き出てくる。
 開ききった膝を抱え上げ、背中にしがみついて
 無理がある体勢だけれど、普段以上に興奮していた。
(お前も同じだろう、ルシア?)
 生地の中に手のひらを忍ばせて膨らみを揉みしだく。
 捲れあがったドレスの生地が、行為をより卑猥に魅せていた。
 頂を指で擦りながら、やや乱暴に愛撫すれば、
 断続的な喘ぎが聞こえてきた。
 仰け反って突き出す形になった胸に舌を滑らせる。
 甘噛みをして、転がす。
 赤く色づいた実は何故か、甘い。
「どうしてだ?」
 答えなど求めてはいない。気づけば口にしてしまっていた。
 あられもなく開いた唇に誘われるようにキスをする。
 舌で上唇をなぞり、啄ばむだけのキスを繰り返し、
 長めのキスを交わした。
 それから、濃厚なものに変えていく。
 舌を窄めて、口内を探る。触れた途端躊躇う動きを感じた。
 容赦なく絡めとる。
 零れ落ちるものを舐めとって唇をふさぐ。
 繋がっている場所に触れて、隠れた蕾を弾くと
 派手に仰け反り、危うく崩折れかけたので、慌てて抱き上げた。
 じんじんと熟れた場所で、未だ俺とルシアは繋がったままなのに  離れろというのは拷問だ。
 抱き上げた格好のまま、瞬間転移する。
 見上げてくる彼女の瞼にキスをした。
 中途半端に脱がした服を初めて全部露にさせると、
 ベッドに横たえて、再び行為を再開する。
 首に絡みついて来る腕。
 視界を揺らして、本能のままに。
 首筋に頭を埋めて、跡を刻み始めた。
 ひときわ強く吸い上げれば、ルシアが一瞬顔をしかめ、すぐにとろけた表情になる。
 耳朶に舌を這わせると、甘い吐息が聞こえた。
「あ……」
 ルシアの体をうつ伏せにして、背筋に指を沿わせた。
 手のひらに吸い付くような感触に、身震いする。
 滑らかな肌をじっくりとなで上げる。
 探るように、確かめるような仕草で。
 寄せた唇の刺激が強くなると、ルシアは唇を噛んでシーツを掴んだ。
 少しの隙間もないほどに、赤い印を残してやりたい。
 痛みよりも強く感じさせてやる。
 シーツに押しつけられているふくらみを掴んで手の平でいとおしむ。
 顔を覗きこめば、瞳を潤ませ、快楽を堪えている表情が見えた。
 口の端が、無意識に緩む。
 微妙に持ち上がっている細腰を支えて、体を持ち上げる。
秘部に指を押し当てた。
「大丈夫か……?」
 続く行為で、感じすぎているはず。
「……ん」
 掠れる声に、ゆっくりと指を奥に侵入させた。
 十分に濡れている。
 触れて指に滴ったものを口に含んだ。
押しつぶさないように、微妙なバランスを保ちながら彼女を上から抱きしめた。
 獣のように覆いかぶさった格好で、繋がる。
 細い悲鳴は、歓喜を含んでいて、煽られてしまう。
 一気に腰を進めて、夢中で内部をを突いた。
 揺れる膨らみを揉みしだきながら、腰を往復する。
 互いの荒い呼気が、部屋を満たしていた。
 腰の動きを止めて、優しく抱きしめて囁いた。
「愛している……ルシア」
 上り詰めて、呼吸が整うまで、繋がりを解かぬまま重なり合っていた。
 小刻みに震える指を掴んで、そばに横たわる。
 達した後のルシアは、とても穏やかで満ち足りた顔をしていた。
 抱き寄せて腕の中に閉じ込める。
 長い髪を一房唇に寄せてキスをする。
 心地よい疲労が、全身を支配していた。
 ルシアの香りに包まれながら、瞳を閉じた。

 手を握ってみると、ぴくりと反応があった。
 顔を寄せてみると、いきなり瞳が開いたので反応に一瞬困った俺は、
 慌てて手を離して飛び退ってしまった。
「私だって間近にクライヴの顔があって驚いたんですよ」
 俺にきょとんとした目を向けるルシアの顔は赤い。
 頬に触れてみるとほんのり温かかった。
 寝起きの掠れた声は普段とは雰囲気が違う。
 ルシアはやがてくすくすと笑い始めた。
 唇に手を当てている彼女がいとしくて憎らしくて思わず
 その手を掴んで、キスをした。
 小指を啄ばんで吸う。感じた顔を目に焼きつけた。
 いきなり唇を塞いで吐息を奪う。
 首にしなやかな腕が絡みつく。
 開いては伸ばしてしっかりとしがみついた。
 まどろんでいたルシアが、覚醒した瞬間だった。
 視線を交差して唇を交わし合う。
 体の火照りは、官能が目覚めた合図だ。
 ルシアの腕を引いて、組み敷く。
 行為後だからか、陥落するのが早い。
 見あげてくる瞳にどんな答えをくれてやろう。
「あんなのじゃ足りないよな」
 高慢に笑う。ベッドに肘をついて自分の領域の中で  ルシアを閉じこめる。
 熱が、引いてくれない。
 わがままにルシアを貪り始めた。
 うつ伏せにして、抱きしめる。
 背を指と唇で辿る。赤い軌跡を描きながら。
 濡れた体は甘く匂いたつようだ。
 頬をすり寄せるとどこか安心する。
 闇に彩られた部屋は、朝か昼かつかめないが、時間が分からなくなることはない。
 ルシアも、日々を暮らすことで慣れてしまった。
 目覚めるその前にもう一度お前を堪能してもいいだろ?
 俺たちの夜は長いのだから。
 自分の中で勝手に結論を出して、愛撫を続ける。
 真に嫌なら抵抗するはずだ。求め合いたいという同じ気持ちなのだ。
 敏感に返ってくる反応に、ほくそ笑む。
 素直な態度は、ゆるぎない自信を己の内に蘇らせてくれる。
「……っん……ふ」
 耳に吐息を吹きかけて、耳朶を甘噛みする。
 声を抑えようと唇に手を押し当てている姿にそそられた。
 ささいなきっかけで勢いを取り戻す自身に苦笑する。
 早く、もう一度味わいたいと訴えている。
 両足を開いて腰を持ち上げると、指で秘部に触れた。
 そこは既に泉が溢れかえっていたが、未だ足りない。
 内部に触れずに外側をやさしく攻めて、ようやく指を沈めた。  出し入れを繰り返して馴らしていく。
 片手をつなぐとルシアは、ぎゅっと握り返してきた。
 それを合図に、腰を落とした。
 甘い悲鳴が耳をつんざく。
 上下にゆすったり、円を描いたり
 腰を打ちつけるたびに、どちらともなく唸り声を上げる。
 密着度が高くて、どうにかなりそうだ。
 すべてが熱い。身をやかれてしまう。
「ああ……はぁ……」
ルシアの体を、抱き上げた。
 腕を回して、ふくらみに触れる。
 下から突き上げながら。
 固く熟した頂を掌で転がすときゅっと絞めつけられた。
 爪が食い込むほどに手に力を込めているルシアの耳朶を噛んで耳元で囁いた。
「どうした?」
「……顔見せて」
 顔が見えないのも視覚に訴える刺激は強かったが、
 ルシアに懇願されてはたまらない。
 繋がりあったまま、体を反転させて向かい合った。
「これでいいのか?」
 ぐいと下から貫く。
「ん……っ」
 困ったな。
 返事とも喘ぎとも判別できない。
 けれど衝動に逆らうのも体に悪い。
「あ……だめ……」
 敏感な部分に擦れたらしい。
 抱きしめると、寄せられた腕が背で繋がれる。
「ルシア?」
 名前をつぶやかずにはいられなかった。
 彼女自身を感じたくて問いかける。
「……クライヴ」
 愛してるわと囁かれた言葉は、空気に溶ける。
 達してしまったのだ。
 ルシアは瞳を閉じて荒い吐息を繰り返している。
「お前に出逢えて俺はこの上なく幸せを感じている」
 愛していると言いながら、高みに登りつめた
 かわいらしい女を抱えこんで再び眠りについた。
 しばらくは目覚めないかもしれない。
 ルシアと共に見る甘い夢の中で、羽を伸ばすとしよう。