髪を梳く  


鏡越しに、彼を見上げる。
 椅子に座っているから余計自分の小ささと彼の大きさを感じる。
 腰をかがめてるせいで、覆い隠されてるみたいでどきりとした。
「……まだ終わらないの?」
「大人しく待っとけや」
「だって落ち着かないんだもん」
 人に髪を梳いてもらうなんて、初めてでどうもむずむずする。
 やけに丁寧にブラッシングしてくれている。
 鏡に映る彼の顔は真剣そのものだ。
 いつものふざけた態度が嘘みたい。
「……飽きないの?」
「俺の可愛いすみれの髪を整えるのに飽きるわけあるか」
 かあっと血がのぼる。
 むきになってる彼の様子に、ちょっと笑ってしまう。
 涼ちゃんにすみれと呼ばれるのはくすぐったいけど嬉しい。
 私をそう呼ぶのは彼だけで、呼んでもいいのも彼だけ。
 すっと櫛が通るたびに艶やかになっていく自分の髪が誇らしい。
「お、すみれが笑っとる。さては俺のテクにめろめろになったんやな?」
 鏡越しににやにやしてる彼に、むかっとした。
 何調子に乗っているのよ。
「馬鹿じゃない」
「ああ、もうわかっとるって。ツンツンしても可愛いなんて罪や」
「……っ」
 こうして、また絆されるんだからいやになる。
 髪を梳いた後、ふわっと前髪がそよいだ。
「……カチューシャ!?」
 赤地に、小さな白いドットが散りばめられたカチューシャ。
 ちょっと派手だから、服と合わせるのも大変かも。
 ミ○ーの服の柄に似てる。あんなに大きいドットじゃないけど。
「うん、めっちゃ似合う」
 妙に照れくさくて、俯いてしまう。
「どうして、急に」
「すみれってカチューシャ似合うやろなとふと思い立って」
 鼻を擦る姿がどこかかわいい。
「あ、りがと」
 ぼそぼそとつぶやく。
「どういたしまして」
 涼ちゃんに感謝の気持ちを示すにはどうしたらいいだろう。



 後ろから抱き締める  







好きシーンで創作30題  

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