制服  



素肌に噛みつくように触れられる。
 吸い上げられ、時折歯を立てられて、呻いて喘ぐ程に  愛撫は、濃度を増す。
頂ではなくふくらみを  揉みこまれ、す、と足を開いていく。
 開かれた足は腰が押さえつける。
 触れるか触れないかのぎりぎりの位置で、
 体を浮かせて、彼は、フと独特の笑みを刻んだ。
 膨らみは形を変えるくらい激しく揉まれていた。
「っ……あ……欲しいの」
 しどけなく開いた唇から願いが、零れた。
 はしたなく腰を振って彼を求める。
「何が」
 気が高ぶる。言わせたいのだ、彼は。
「あなたの熱で、私の中を侵して……っ」
 犯したいと言った彼ときっと同罪だ。
「よく言えた」
 口端をゆがめた彼が、さらに腰を押しつけてくる。
 触れ合っただけで体が、騒いで止まらない。
「っああ……っ」
抱き上げられ、椅子の上に座る格好になった。
 一気に奥を貫かれて、悲鳴を上げる。
 耳朶を食む唇が、内部の感覚を鋭くしているよう。
「っ……く、…はっあ……」
「愛しているよ」
 耳元に吹きかけられた吐息。
 甘く香って、それだけで、何もかもが分からなくなる。
 腕を伸ばしお互いを抱擁する。
 彼が奥を揺さぶり始めた。
 不安定な体勢で、抱き合うには適していないが、
 本能のまま確かめている私たちには関係なかった。
 背中は後ろの壁に触れる。彼の背に腕を回すと汗で滑った。
「青、愛してる……愛してるわ」
「ああ」
 腕の力は強くて、一緒に波に揺られることができる。
 穿たれているのは体の一部でも、熱が全身に回る。
「段々、ゆっくりになってきたな」
「あっ……え? 」
 自分ではよく分からなくて首を振っていた。
 胸元に頭を寄せて、彼は強く噛んだ。
 言葉は直接胸の内に届けられて動揺した。
(そんなの知らない……)
私がゆっくりになったらしいのとは逆に彼の動きが性急になる。
   下から突かれてもどかしい動きに声を上げた。
「っ……くう……っ」
 低い呻きと共に、熱い物が、体の中に注がれる。
 とく、とくと心臓も同時に高く響いていた。
 結局、体を洗った後、お湯をいっぱい溜めたバスタブの中でも
 奔放に愛し合って、休憩じゃ足りないというのを思い知らされた。
 気づけば、ベッドの上で肩を抱かれていた。
 久しぶりに見る彼の煙草を吸う姿に見とれ、
 ぼうっと見つめていると、いきなり体を引き寄せられた。
 彼は、すばやく煙草を灰皿で揉み潰す。
 抱きついて、胸元に頬を埋める。
 その途端、ぐるりと視界が反転した。
 彼が私の上に馬乗りになっていた
「ふあ……っ……あん」
 宛がわれた昂ぶりに下から勢いよく貫かれる。
 先程までの余韻で、難なく彼を受け入れていた。
 深い場所で、息吹を感じて、全身が心臓になったみたいに騒ぎ出す。
 ふいに敏感な場所に彼が当たり、大きな声を上げてしまった。
 避妊具越しだ。
 私が薬を飲んでいても、彼は決して避妊を怠らない。
「まだお前を満足させられてなかったかなって」
「……いつだって、満たされすぎなくらい満たされてるのよ」
「掠れた声で言われると実感がわくな」
 口の端を上げて、更に突き上げを深くしてくる。
 腰に回されていた腕が、ゆっくりと胸元まで進み、ふくらみを揉みしだく。
 ベッドに肘をつくと、振動が伝わってくる。
「っ……だめっ……ああ」
境を隔てて放たれる熱。
 何度かに分けて続いたそれに、体が痙攣を起こす。
 足元から震えていた。
 ぱたりと、沈み込む。その後から彼が覆い被さってきた。
 愛しい重みに、泣きそうになる。
 荒い息遣い。二人して横たわってそっと寄り添いあう。
 髪を弄ぶ手の動きに、甘い眠りへと導かれていった。

 再び目覚めた時、彼は髪を手のひらに
 掬って口づけては離すのを繰り返していた。
「いい思い出になったな。また来よう」
 こくり、と頷きかけて、ハッとする。
 これだけは抗議しておかなければ。
「制服、もうちょっと着ていたかったのに」
「脱がしたくなるんだよ」
 お前がエロいからと耳元で囁かれて、彼の胸板を拳で叩いた。
「青だってスーツ姿の色気が半端ないんだからね! 」
「お褒め頂きありがとう」 
 ちゅ、唇が重なって離れる。
「もっと大胆に言っても構わないんだけどな?
 イクとか、イカせてとか」
「無意識なんだもの」
「その内言うようになるだろうけど」
 意味深に微笑まれて、ううと唸った。
 きっと、言わせられてしまうのだ。
 繋がれた指に安堵して、今度こそ瞳を閉じた。
 クローゼットの中を名残惜しげに見つめる私に彼が、微笑んだ。
「もう一回着たいなら着ろよ。愛し合わなければ時間はまだあるから」
「……うん」
 後者は聞かなかったことにする。
 からかっているだけなのだ。
 本気にしたら、ぐったりした状態のままマンションまで帰ることになる。
 もう一度、制服を着て彼を振り返ると、
「っ……青」
 ふわ、と抱き寄せられた。甘く香るのは彼の匂いだ。
「本当はこうやって抱きしめたかったんだよ」
「説得力がありません……っ」
 スーツ姿の決まっている悪徳王子は、悪びれずしゃあしゃあと言い放つ。
 ネクタイもびしっと整っていて、ジャケットにも乱れがない。
 クローゼットの中に収納していたのだと思われた。
 手を強くつかんで離され、ぐる、と一回転。
 ぐ、と腰を抱かれ、背筋をそらせる。
 まるで、ダンスだ。いや、本当にダンスしているのだと気づいた。
「青ってこういうこともできるのね」
 優雅にリードされ、足がもつれることはない。もちろん、危うい瞬間もない。
 手を引かれて、しばらく踊り続けていた。
 楽しくなって、自分から彼の手を握って振り回す。
「帰りましょ」
「随分と楽しそうだな」
「だって、大好きな人と一緒にいるのよ」
 頭を撫でられて、くすぐったくなる。
 一緒にマンションまでたどり着いたまではいいけれど、
 彼がベッドに運んでくれたものだから、すやすやと眠ってしまった。
 よほど疲れていたのか。
「まだ、修行が必要だな」
 青の呟きは、聞こえることはなかった。
   

 遅いブランチを終えて、ソファに二人並んで座っていた。
 ラフな格好に着替え、沙矢も部屋着に着替えている。
「お前も俺も制服といえばスーツだろ」
 沙矢は、こくりと頷いた後、ぽんと手を打った。
「青は白衣もじゃない。見たことないけど! 」
 何かを期待している沙矢に、意地悪く微笑む。
「まあ、見せてやらなくもない」
「じゃホワイトデイに見せて。プレゼントは他にいらないから」
「引き換えにしなくても見せるさ。プレゼントを渡す楽しみを取り上げないでくれ」
「……やったあ」
 結局彼女には弱いのだ。
 華奢な肩を抱き寄せる。その息遣いさえ愛しい。
 抱き合う時間も尊いが、こうして穏やかに過ごす時間も好きなのだ。
 セーラー服を見た瞬間、可憐さの中にある危うい色香に
 理性の欠片が脆くも飛び散ってしまったのは、俺のせいじゃない。
 男の本能を揺さぶり立てる彼女の魅力のせいだ。
「楽しかったけど、もし次の機会あるなら
 今度はお部屋をもっと堪能したいわ」
 顔を覗きこめばきらきらと瞳を輝かせている。
「性急すぎてゆっくりできなかったな」
 ニヤり、笑みを刻めば、恥ずかしそうに顔を赤らめる。瞳は微かに潤んでいる。
 上目遣いで見つめられれば、保護欲と同時に嗜虐的な気持ちも生まれるのだ。
「そうだな。どれだけ汚しても気にしなくていいし。
 時間が限られている以外は自由だな」
 それは、シーツに限ったことではない。
 腰の辺りに指が触れる。ぎゅ、と服の裾を掴まれたようだ。
「どうした? 」
「場所なんて関係ない。あなたと過ごす場所はどこだって特別なの」
「俺もそうだよ。沙矢と過ごせるならどこだっていい。
 車だろうと浜辺だろうとな」
「うん。青の運転は好きよ。
 浜辺の砂の上をまた散歩したいな」
 背中を撫でた。柔らかく触れるだけの仕草で彼女は瞳を閉じる。
「今度、車の中でしてみる? 」
「……嫌よ」
 はっきりと告げられ、思わず笑みを刻む。
 心なしか、距離を空けられ、すかさず腰を抱く。
 頭を引き寄せてもたれさせるとこてん、と額を寄せてくる。
「もう大丈夫なのか……あの上司は何も言って来ないか? 」
「平気よ。普段はそんなに関わることないの。
 たまにすれ違って挨拶を交わすくらいよ。
 社内で変なうわさも流れていないし、心配するようなことは何もないわ」
 よどみなく話し、微笑む沙矢に深く息を吐き出す。
「忘れた頃に、なんとやらだからな。人間ってのは厄介だよ」
 一ヶ月以上が過ぎて、あの部長とやらが沈黙を守っているのが気になる。
 少し聞いた話だけで疑いすぎかもしれないが、あの手の人間は
 しつこいのだ。杞憂で終わればいいと願わずにいられない。
 彼女は、自分を知らなさ過ぎる故に警戒心が足りないのだ。
「あ、そうだ。陽香から合コンのお誘いを受けたのよ」
「は? 」
 思わず耳を疑った。人の心配を余所に、彼女は今何と言った。
 合コンとは、合同コンパか。
「男性と女性それぞれメンバーが一人ずつ足りないんだって。
 私と青が参加すればちょうど数が合うの」
 無邪気、ここに極まれり。
「俺とお前は数合わせかよ。大体、パートナーを見つける
 目的の酒飲みパーティーに恋人同士が行く必要はないだろうが」
 俺の放つ怒気に気づいたのか、彼女はびく、と震えたものの引き下がらなかった。
「それを承知で、頼まれているのよ」
「何でそんなに食い下がるんだ」
「陽香にはいつもお世話になってるから、力になってあげたいの。
 彼女も友達から頼まれたって話だし。あ、これ陽香ね」
 携帯の画像フォルダに映る二人の女性。
 沙矢と一緒にいるのが、陽香という女の子だろう。
「タイプが違うというか、お前はこんな感じの頃があったな。
 彼女の真似をしてたのか」
 一時期、沙矢は大人びた化粧と服装をしていた。
 ナチュラルなメイクとファッションの今とは、まるで違う。
「そうかもね。あなたに釣り合う大人の女を目指してたから」
「俺はお前だから欲しかったんだよ。もちろん、現在進行形で」
 さら、と柔らかな黒髪を梳いて撫でる。
 はにかんで笑って、彼女はこちらの様子を伺う。
「駄目なら断るから」
「いや、行こう。陽香さんも俺達が付き合ってるの承知の上で
 頼んできたんだから、小さなことには目をつぶってもらおうか」
 沙矢はきょとんと、首をかしげた。長い髪が生地に擦れて音を立てた。
「俺の女に悪い虫が寄らないように見守るよ。それがナイトの役目だ」
「こんな最強のナイト様は他にいないわね」
「俺はお前以外の女には興味ないから安心しろよ。
言わなくても分かってくれてるだろ? 」
「改めてありがとう、青」
「それは、どうも」
 ぐ、と抱き寄せて唇を重ねる。
 小さなリップノイズが、静かな部屋ではやけに大きく響く。
「心配で、眠れそうにないなあ」
 飄々と呟いて、彼女を膝に抱き上げる。
 顔を真っ赤にする姿に掻き立てられる衝動。
「責任とって添い寝しろ」
「め、命令……添い寝だけよ! 」
 強調するから、おかしくなって破顔した。
 彼女によって変わる自分が、割と気に入っていた。
「もう、笑うなんて。身が持たないのよ、無理なの」
「すぐに慣れるよ。三日連続で試すか、一日でその分を試すか」
 ふ、と息を首筋にかけた。
「わあ……っ無理ですから」
 わめく彼女を羽交い絞めにする。
 冗談だと、抱きしめて軽く口づける。
 明日が始まるまで、ずっと抱きしめていたい。







  
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