腕の中で、聞く彼の声は眠りを誘う。
 甘くて、耳に心地よい低音。
 うとうととまどろんでいると、官能を呼び起こされて
 決して眠らせてはくれない。
 気づけば布団の上に組み敷かれていて情欲の滾る瞳に見下ろされている。
心臓が騒ぎ出す。
 抱かれる前の胸騒ぎと、独特の緊張感。
 いけないことをしている感覚なのは、ここが二人の住む場所ではないからだ。
 目元が潤んでくる。頬に伸びた指が涙を拭った。
 軽いリップノイズの音が響いては離れる。熱くて、容赦がない。
 彼の仕草ひとつひとつに簡単に欲情して躊躇いなんて、吹き飛ばす。
だめ、という気持ちが、余計に刺激となって
 彼の思うがままに感じている。
 肌蹴られたパジャマ。湯上りの肌は淡く上気している。
 彼の視線が、釘づけになっていることに気づかないまま吐息をこぼした。
「お母さんは、藤城総合病院で私を産んだの。
 小さい頃の青も何度か見かけたことがあるって言ってたわ」
「縁だな。運命だなんて言葉で片付けたくはないが」
 さら、と髪が梳かれる。額にキスを落とされた。
 彼の背中に腕を回す。私、あなたを欲しがってもいい?
明かりの下、微笑む。
「食い散らかしたりしないから、黙って俺を受け入れろ」
 青が腕を伸ばし、照明が落とされた。オレンジ色の淡い光が部屋を照らす。
 私は、誘われるまま瞳を閉じた。
「愛しているわ」
 言葉に出さず唇の動きで伝える。
 薄い明かりの下でも伝わるだろう。
 返ってきたのは耳元への囁き。
 思わず、身体が打ち震えて、たまらない気持ちになった。
 唇に触れた指に口づける。促され、キスをする。
 ちゅ、ちゅ、と彼の指先を愛でていると次第に興奮してきた。
 逃げ場なんて必要なかったの。
 あなたを受け入れる選択肢以外ないもの。
「っ……沙矢」
 指を噛んで軽く吸う。彼は小さく呻いて私の名前を呼んだ。
「あなたは怖くないわ。
 わたし、男の人に免疫なくて、青以外は怖いままだもの」
「俺はお前にとっての唯一なんだな」
 頷いて、彼の指に口づけて離す。
「ヤらしい顔。唇も濡れてて」
「んん……っ」
 激しく唇を貪られる。
 腕は手首をひとくくりに押さえられた体勢で足を絡ませた。
 私を求めてくれる彼の欲が愛しくて触れたくなる。
「青、わたし、私ね」
「最近は愛し合っている時に話をするタイミングを掴めて来たな」
 私達は、何度も抱き合ってきたけれど、
 話もせずに、肌を合わせることでお互いを感じ取ろうとしていた。
言葉もなくて分かり合える部分もあるが、
 抱き合うときの会話はお互いの心まで裸にできるのは確かなのだ。
 お風呂に入っている時に何でも話せる気がするのと同じ。
「これ以上好きになることはないんだって思ってた。
 好き過ぎて溺れちゃいそうで。
 求める気持ちに終わりがないみたい……」
 自分でも何を言いたいのか分からなかった。
 彼の全部を知らなくてもいいなんて嘘だ。
 愛されて、欲張りになってしまったの。
「あ……っ」
 いきなり、赤く色づいた頂をちゅ、と吸われた。
 舌でぺろぺろと舐めては、キスを落とす。
 もどかしげにばたつかせていた足からパジャマのズボンが引き抜かれる。
 腰が、疼く。下着の上から、湿った場所をなぞられた。
 この部屋が母のとなりの部屋ではなくてよかったと思う。
 声だけの問題じゃない。音だって響いているに決まってる。
「俺に夢中になってろ。よそ事ばかり考えるな」
「は……うっ」
 下着の脇から入ってきた指が、蕾を擦った。
 びりびりと電流が走り、連れて行かれる気配がする。
 下着がすべて剥ぎ取られて、投げ置かれた。
 形が変るくらいもみくちゃにされているふくらみ。
 立ち上がった頂は指の腹でぐりぐりと転がされ、
 同時に潤い続ける秘所の側では蕾を撫でられている。
 やさしいのか、意地悪なのか分からない愛撫に、もだえて、指を噛む。
 彼の視線は、私の仕草を見逃さず唇が、押し当てられる。
 俺の唇を噛んでいろと、耳元に流し込まれた。
 気を利かせすぎている母はしっかりと
布団の上に大判のバスタオルを敷いてくれていた。
 これでいらぬ心配はしないですむけど、用意周到さには赤面する。
 事前に了承を得ているって、本当だった。
「っ……くっ……あ」
 貪られる唇。突き立てられた指がつぷ、と飲み込まれていく。
 激しく舌を絡め、お互いの首筋まで滴が零れている。
「ああ、今日も美味そうだな。とろけてる」
 彼の息は荒く、普段より更に艶っぽかった。
 ぶるぶる、と頭を振る。
 指は、ゆっくりと中を探り、私の痴態を暴く。
 口元に拳を当てて声を抑えた。彼の髪が、秘所に触れている。
 どこでだって遠慮なんてしないんだ。
「青に羞恥はないの……」
 ちゃんと言葉になっているか自信はなかった。
 濡れた声をこぼしただけ。
 くわえて引っ張られた頂から、電流が走った。
「あるさ」
「嘘ばっかり……っあ」
 クス、と邪(よこしま)に笑った表情のイやらしさときたら。
 段々と快感の度合いが強くなり、瞼を開いているのが難しくなってきた。
 抜き差しされる指は、一番奥を突き上げた。
 思考が奪われて、ばったりと腕を投げ出した。
 弾む息は荒く、同じだけ息を弾ませていた。
 ごろん、と横向きになる。
 潤んだ視界の中、敷布団に腕をつく姿をとらえた。
 秘所には薄膜をまとった彼自身が触れている。
 さらりと、髪を梳かれ、頬と首に口づけられる。
 ちゅ、と啄ばんでは離れる唇はあやしているのか、
 焦らしているのか判別がつかない。
「泣くなよ。そんなに欲しいのか? 」
「っ……ち、違う」
「違うのか。じゃあ今夜は本番なしでいいな」
 あくまで余裕たっぷりに見える彼を、視線で貫く。
 鋭く睨んでいたら頬を撫で、
 首筋を撫でた後耳をかぷり、と食まれた。
 舌が入り込んでくる。
 触れておいて、入ってこないなんてあり得ない。
「っ……、あなたに来てほしい」
「その顔が見たかったよ……っ」
「あ……はっ……あ!! 」 
 横向きの体勢で、後ろから貫かれた。
 胸の下に腕が回されている。
 いきなり勢いよく腰を繰り出されてしまう。
 最奥を突く動きは最初から、ゆるやかとは程遠い。
 首に腕を絡める。汗が、肌の上に落ちてくる。
 艶かしい姿が目に飛び込んできてぞくぞくと震えた。
 顔が近づいてきた時、頬に口づけた。甘い余韻が残ればいい。
「可愛い……俺の沙矢」
 ぱちぱち、と瞬きする。頬を寄せてきた青が唇をつけながら囁いた。
「っ……、言わないで」
「どうして? 俺にはお前しかいないのに」
 殺し文句のせいで、余計に感じてしまう。
 変化をつけて動く彼の腰の動きを追うように、夢中で腰を揺らした。
 ぶつかり合う水音。
 唇も飽きるほどに重ねて、舌を吸う。
「っ……もっと長くあなたを感じていたいのにできなくなるわ」
 思わずもらした本音。
 言葉が真実になってしまわぬように、快楽に抗う。
 近づいてくる彼を遠ざけたくない。
 側にいて。もっと、私の中で息づいて。
 抱き起こされ向かい合わせで、繋がる。
 指を丹念に口づけられ、ひっくひっく、と嗚咽が漏れた。
「これから、何度だって感じさせてやる。
 無限の夜にお前を抱くよ」
 声にならない叫びが迸る。
 最奥で、炎がはぜた。
 避妊具越しに放たれた飛沫が、押し寄せてきて、くらりとした。
 背を仰け反らせる私は彼に支えられ恍惚の中瞳を閉じた。
 薄明かりの中ぼんやりしていた。
 髪をなでてくれる指先に、うつらうつらと眠りと現をさまよう。
 これって、愛し合った後の戯れ?
ケアしてくれているんだと思うけど、
腰にあたる熱いものは何なの!と言いたい。
まだエネルギーが満ちている気が。
「ひゃっ……っ」
「どうかしたか? 」
「な、何でもない」
 お尻に当たってくるソレがうごめいた。ぴくんと。
 青の意思の力によるものなの?
「落ち着いて眠らせてくれないの……」
 さすがにぼそぼそと小声になった。
「お前が、好きで言うことを聞かないんだ。俺こそ困ってる」
 聞かなかったことにしたい。
 いけしゃあしゃあとしている彼はまったく疲れていない。
 私は、心地よい疲労で、甘いまどろみに包まれようとしていたのだが、
「はっ……も、青」
 肩口に歯があたると、腰がわななく。
 ひっくり返され、上向けにされると、彼の視線が降り注いだ。
 私を求める強い眼差しに気おされそうで、頷く寸前でこらえた。
「だめ、もう今日が来ているのよ。少し休んで起きましょう」
 小さく舌打ちが聞こえビクッとした。
 彼が身体の向きを変えたので、後ろからしがみついてみる。
「お前、言っていることとやってること違うぞ」
「え、そ、そんなつもりはなくて……」
「そのはちきれんばかりの乳房で抱擁してくるなよ。
 拷問にも程がある」
「ぎゃあ。乳房とか、初めて言った! 」
 それでも、ぴたっと密着していたくて背中から離れられない。
「固くなった乳首が背中に擦れてる……」
 はっきり告げられ、少し距離を取り腕を背中から回す。
 しっとりと汗ばんだ肌は、分かち合った証だ。
 彼の声音が苦しそうに聞こえたので、罪悪感を覚えてしまう。
「これからは正式名称の方で表現しようか。
   余計に興奮するだろ? 」
「……うう」
 彼が、私の腕を掴んで、引き寄せる。
 胸の中に、抱きしめられれば、言葉も浮かばない。
 こっちが嫌がるのを見て楽しんでるのを文句つけたいのに
「おやすみ」
「おやすみなさい」
 冷めないままの熱い肌を寄せ合ったまま瞳を閉じた。
「おはよう」
「おはよ」
 舌っ足らずに返したら、頬に口づけられた。
彼は寝転んだ私の頭を膝に抱いている。
 きっちりと着替えているなんて反則だ。
 バッグの中から取り出したのだろう。
 藍色のジャケットにシャツを纏い、皮のパンツを履いている。
 決まりすぎていて唖然。
 私、まだ裸なんですが。
「お前は甘いな」
 彼の視線の先を追うとゴミ箱にはティッシュの山が盛り上がっていた。
「使用済みのゴミも含めて明らかな証拠だな」
 クッ、と喉で笑われ、彼の膝を叩いた。
「汗やら体液でべたべたになった状態で服を着れるはずもないんだから」
 身体はしっかりと拭われていて不快感はない。
 タオルはいかにもという感じでぐちゃぐちゃになっている。
青の大胆発言が私の堪えられる限界を超えていて頭が沸騰していた。





next   back   sinful relations