「距離感がないからかな。包まれているから安心していられるの」
 遠くからは見ていられないってことか。
 頬に指を滑らせる。
 入浴したため、つるつるとよりきめ細かな質感だ。
「くすぐったい……」
 肌を指先で撫でた。
 愛撫よりは柔らかい力でくすぐると軽い笑い声を立てて身をよじる。
 腰をくねらせるから、両腕を胸の下に差し入れた。
「ん……」
 上唇を食んで、吸いつく。
 ぴったりと重ね合わせてキスを交わす。
 中で、するのは本来不衛生だ。
 のぼせてしまったら、楽しめなくなる。
 華奢な体を横抱きにして、湯船から立ち上がると水音が立った。
 首に絡まる腕は、しなやかで熱い。
 バスマットの上に座らせ、壁際から抱きしめる。
 入浴で火照った肌は、微かに震えていた。
 背筋に指を滑らすたびに、びくんと何度も揺れる。
「どうして、食事中に顔赤らめてた? 」
 つーっと指を上下させると、鼻から息が抜けた。
「……き、聞くんだ」
「気になるからな。お前に聞くまでは心の中がすっきりしないんだ」
「青ってお姉さまと似てるのね。ぐいぐい迫る感じとか」
「しょうがない。認めたくはないが姉と弟だからな」
 顎をつかみ、上向かせる。
 どこか潤んだ瞳は照明に照らされきらきらと輝いていた。
 このとてつもない吸引力は俺を引き寄せて止まない。
「っ……ふっ」
 舌で唇をこじ開け、沙矢のそれに絡ませる。
 吐息が漏れる濡れたキス。
 混ざっては、顎から、首筋へと零れ落ちる。
 思考が、濁っている沙矢は腕をぶらりと投げ出していた。
 床に着きそうな手首を掴み、指を繋ぎ合わせる。
 欲室内にこもった熱気はより濃密さをましていく。
「ん……好きなように抱いてって言ったの思い出してドキドキしてたの」
 これが問いの答えらしい。
「興奮の間違いだろ。こんなになってイケナイ子だな」
「きゃあっ」
 つ、滑らせたそこは、じっとりと湿っていた。
 明らかに沙矢から溢れ出た水分だ。
 そっと掬い、指についた滴をぺろり舐める。
 見せつけるように顔を覗き込めば、羞恥なのか
 感じ入っているのか溶け出しそうな表情をしていた。
 蛇口からお湯を出し、ボディーソープを泡立てた。
 自分の手を洗った後、泡をたっぷりと手に掬う。
「青、私もう洗ったよ」
「焦らなくても時間はあるんだからな」
「焦ってなんか……っ……手つき!」
 膨らみに泡を乗せると、こんもりと盛り上がった。
 滑り落ちていかないのは大きさがあるからだ。
 焦った彼女が、俺の手を掴むが、構わず侵略する。
「ああっ……っん」
 指に乳首を挟み泡を乳房全体にこすり付ける。
 一度力を込めて揉むとぶるん、と震えた。
「おいしそうだ」
 早く食らいつきたい。
 乳首に触れないように周りをこね回しているだけでぷっくりと膨れ上がってくる。
 痛いほど張りつめたそれは、俺の唇にくわえられるのを待ち望んでいるようだ。
「子供が宿ったりしたら、また膨らむな」
「えっ……そうなの? 」
「赤ん坊に栄養を与えるために胸が張るんだよ。
 やばいな、これ以上大きくなったら手に余る」
「も、今から妄想しないでよっ……ゃっ」
 張りつめた頂を指で押しつぶした為だろうか。か細い声がもれた。
 左の拳を唇にあてて、指を噛んでいる。
「余計イヤらしい。無意識で男を煽る女だな」
「ち、違うっ……ん」
 いきなり唇を奪う。ねっとりと絡めると唾液が、混ざり合う。
 唇を離したら白い糸がぷつん、と途切れた。
「私、青が大好きっ」
 キスの合間、彼女の漏らした言葉は唇へ直接伝わってきた。
「俺はもっと好きだよ。奪いたいくらい」
「ん……何度でも奪って」
 打算も計算もない。
 無防備なまでに心を預けてくれている。
「ああ……奪ってやる」
 背中に泡のついた手を滑らせて、なだらかな曲線をなぞる。
「本当に綺麗だ」
 ウエストまでのラインがとても美しく、触れて確かめるたびため息が漏れる。
「っ……そんなことないもの」
「謙遜しなくていい。自分を磨いているのは俺のためだろ」
 自惚れじゃなく、感じるのは、会う度に花開いていったからだ。
 特に共に暮らし始めて二ヶ月の間に、完全に羽化した。
 さなぎが蝶に変わるのを見た。
「そうね……青のおかげよ」
 自分の努力を決して誇ったりしないんだな。
 いつも俺を立ててくれて、いじらしくて仕方がない。
「俺はお前を咲かせられたんだな」
「青しかいないわよ」
 拗ねた唇に指を押し当てる。
 キスを重ねた唇は赤く色づいていた。
「っ……青」
 泡を洗い落とした肌に、頬をすり寄せた。
 つん、と上を向く乳首を唇に挟んで、軽く歯を立ててみる。
 うめき声が聞こえた。
 下から見上げれば、あからさまなほど感じている表情をしていた。 
 舌で円を描き、唇でひっぱる。
 音を立てて吸い上げると、声が一層高くなった。
 ちゅ、ちゅ、とリップノイズを響かせ乳首を攻める。
 反対側の乳房はやわやわと揉みしだきながら反応を見た。
 ふいに足にあたったらしく、びくっと痙攣した。
「まだ、何もしてないぞ」
 凶暴なまでの欲望が自己を主張し、沙矢を求めている。
 手にもう一度石鹸の泡をつけ秘所に指を忍ばせると、そこはしとどに濡れていた。
 泡の刺激か蕾に触れていないのに、びくびく、と足先までを震わせる。
「っ……は……いやっ」
 顔をゆする。髪を振り乱す様に、口の端が緩く持ち上がる。
「花びらと蕾、まさしくそのままだな」
 美しいと思う。
 ここも愛でれば、ゆっくりと咲いていく。
 泡を全体にまぶす。彼女自身の蜜と混ざり合う。
 ぼんやりとしている彼女を残し、シャンプーの後ろに
 常備している避妊具を取り出し、手早くまとわせた。
 風呂場という環境のこともあり、念入りに確認する。
 キスをするだけで、後ろに背を反らせた彼女を膝に抱いた。
 お湯で流し、華奢な体を支えて立ち上がる。
「俺の脚に、お前の脚を絡ませろ」
 既に快楽に溶け出した思考の彼女は、素直に足を絡めてくる。
 ぐっ、と腰を支えて、下から一気に這入った。
 嬌声が浴室内に反響する。
 部屋で抱くよりも、ずっと刺激的なのは彼女の声が、ダイレクトに届くからだ。
 腰を打ちつけ、唇では舌を絡ませる。
 お互いから発せられる水音。もっと、感じたい。
 繋がりを解く寂しさが、一瞬でも遠ざかるのを心ひそかに願う。
「お前の中が俺を呼んでるんだ」
「わ……わかんな……いっ……ああん」
 締めつけが、少しきつくなり、保つのも容易ではなくなってくる。
「こんなに体中が泣き叫んでるじゃないか。
 俺を食らいたいって」
 欲室の壁に背をもたれさせ、激しく責め苛む。
 この体勢ではあまり深く繋がれないし、彼女も辛い。
 繋がったままバスマットの上に組み敷いた。
 床についた腕を背に回させる。
「っ……やあ……青……も、だめ」
「そうだな。今度は寝室(ベッドルーム)で愛し合おうか」
 かくかく、顎が揺れたのを返答を受け取る。
 繋がり合う場所の上にある蕾をそっと撫でると、彼女はあっけなく意識を手放した。
 どくどく、と避妊具越しに幾度も熱情を放つ。
 避妊するために薬を飲みたい。
 そこにはただ俺と直で繋がり肌を合わせたいという気持ちがあった。
 痛々しいまでに純粋だ。俺の望み通りに、欲にまみれている。
沙矢がそうなってしまったのも結局、
 気持ちを気づかせずに抱いてきた俺のせいだ。
 次に抱くときには、はっきり告げなければ。
 何よりも彼女の体が大事だ。
「本当に嬉しいよ」
 柔らかな肌の上、崩れ落ちた格好のまま、暫く彼女を抱きしめていた。
 弛緩する体は熱いまま冷める様子はない。
 
 瞳を開けた彼女の顔を覗きこむ。
 口の端を歪めても、今の表情なら優しく映るはずだ。
 息もすっかり整い、次への準備も万端だろう。
「おはよ、青」
 横向きで寝転び肘を突いている俺に抱きついてくる。
「おはよう……まったくおねだり上手だな」
「う、うん」
 否定しないのか。顔はあからさまに羞恥で染めているが、
 もう一度、抱かれたいという懇願がそこには現れていた。
「抱いていいんだ? 今度は容赦しないが」
「言葉の責任はちゃんと取るわ。
 でも、私もいっぱい青をもらうの」
 可愛らしいのに卑猥だと感じた。
「起きられなくなるほどに、抱きつくしてやる」
 ぐいと体を反転させ、組み敷いた。
「なんて、幸せなの」
 微笑みながら俺の手に指を絡ませてきた。
 柔らかな乳房を手で愛でながら、下肢に手を伸ばす。
 未だ乾いていない場所から、新たな蜜が生まれては俺の手を濡らす。
「……いっぺんに触られたら……っ」
「感じすぎてしまうのか」
 くすくす、笑いながら、蜜を描き出す。
 乳房を荒々しく揉みしだき、頂を吸い上げたら、どくんと溢れてきた。
 入浴後というのもあり、肌は更に火照り薄桃色に色づいている。
 どこに触れても甘く、すべやかで、思わず喉を鳴らした。
 所有のしるしを身体全体に散らしていく。
 歯を立てて、吸い上げる。微かに呻いて腰を揺らす。
 脚は、既にあられもないほどに開いていた。
 額、頬、首、鎖骨、背中、太もも、脛と丁寧に痕を残す。
 お前は、俺のもので、俺もお前の物以外にはならない。
 それを伝えるために。
 わざとらしく、より感じる場所を避けて周りばかりを攻める。
 物欲しげな眼差し、唇が薄く開き、何かを逡巡している。
「何をしてほしい? お前の言うがままに俺は動く」
 彼女が俺の顔に手を伸ばし、頬をなでた。
 ふいうちに、惑い、心が騒ぐ。
 細い指は、頬を撫で、首筋から肩に伸ばされた。
「綺麗……」
 うっとり呟くからどうしていいか分からなくなる。
「自分は無自覚のくせに俺を褒め殺しか」
「死んじゃ嫌」
 冗談だと分かる一言をマジにとられた。
「死なないよ? 俺はお前といつまでも生を確かめていたい」
「来て……」
 天使の微笑みで俺を誘うなんて、どこまでも卑猥だ。
 引き出しから、出しておいた避妊具を手早くまとう。
 また替えを準備しなければなと、笑った。
 腕を引いて膝の上に抱くと背中を抱きしめる。
 絡みついてくる腕の強さに、望むところだと笑った。
 奥を目指して突き上げれば、待ち焦がれていた熱と一体化していくのを感じた。
「愛しているよ、沙矢」
「んん……愛してる……青」
 狂おしくキスを奪う。
 最奥で弾けるまで、時を忘れて求め合っていた。





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