sinfulrelations

an anniversary


 今日は彼のマンションへ行く。
「うちへ来ないか」
 彼に誘われ、驚いた。
 まさか青の家に連れて行ってくれるとは思わなくて。
 驚きを隠せないで呆けている私に彼は言った。
「プレゼント受け取ってくれ」
「うん。嬉しい」
 さり気ない心遣いが胸に染み渡るようだった。
 外での食事を終え、車に乗り込む。
 白のスポーツカーは彼に良く似合っているけど
 どこか不釣合いに感じる。
 私にとって彼は黒か藍のイメージなのだ。
 纏う色も去ることながら、雰囲気そのものも。
 煙草を銜え、ハンドルを操作している彼は、本当に格好いい。
 いつもそう思う。
 助手席のシートに腕を置いて軽やかにバックする時なんて
 腕の中に閉じ込められている気分になってしまう。
 流れる景色を見ていると、そわそわする。
 彼の部屋へ行くなんて初めての事で、期待で胸が膨らんでいた。
 彼は私に何をくれるのだろう。
 情熱の欠片だけでも私は十分幸せなの。
「せ……い? 」
 こわごわ話しかける。
「今日、泊ってもいいの? 」
「当たり前だろう」
「カクテル作ってやるよ。お前をイメージした物を」
「うん」
 頬が綻ぶ。
 本当に祝ってくれるんだ。
 車が左へ合図を出し、左折する。
 目の前には、大きなマンションがそびえ建っていた。
 最上階の最奥が彼の家だ。
 彼が助手席のドアを開けてくれる。
 車を降り、彼の後ろを歩く。
 広い背中を見るのが好きで、私は常に彼の後ろを歩いている。
 3歩後ろをゆくなど意識しているつもりはない。
 背中を見つめていれば確かにそこにいる彼を感じられる
 気がするから後ろを歩いている。
 こんなに近くにいても遠くに感じるから、
 私にはこうすることしかできない。

 細く長い指がエレベーターのスイッチを押す。
 あっという間に最上階へと運ぶ機械。
 彼はオートロックの部屋の鍵を開ける。
 ホテルの部屋以外で、カードキーを見たのは
 初めてで少し感動してしまう。
 次いで、部屋に入ると、広さに圧倒された。
 3LDKだ。私の部屋と比べてどれだけ広いんだろう。
 何より驚いたのは、目立たない閉鎖された空間だということ。
 こんな所に彼は一人で……。
「ねえ」
「何だ」
「随分寂しい場所ね」
「こういう所じゃないと駄目なんだ」
「……そうね」
「掛けてくれ」
 広いリビングで黒い革張りのソファを勧められ、私はそこに座った。
 バッグを膝に置いた姿勢で、室内に視線を泳がす。
「ちょっと待ってろ」
「……ん」
 今いる部屋の隣りに寝室があるようだ。
 部屋中が全て全面黒一色で統一され、光を通しにくそうな
 黒いカーテンはきっちり閉められている。
 彼らしいと感じる部屋だった。

 動悸が治まらない。
 ドキドキする。
 自分の部屋に彼は何度も来ているのに、
 彼の部屋だとどうしてこんなに緊張感を感じるのだろう。
 他の女の人も出入りしているかもしれないから?
 部屋に呼んだ女性は私が初めてだと彼は言っていた。
 私が逆の立場なら、例え別れた後でも彼が来ていた部屋に別の男性は呼べない。
 誰が別の男性に抱かれていた部屋に呼べるというのだ。
実際私は彼のことを受け入れたのが不思議なほど臆病で奥手だったので、
 有り得ない仮定にすぎなかったけれども。 
 ダイニングキッチンでは、器用にシェイカーを振り、
 炭酸水をグラスに注ぐ彼の姿があった。
 シェイカーを振る姿にみだらな想像を掻きたてられて自分の想像力に呆れる。
 先に作っていたカクテルと共にトレーに乗せて、彼がこちらへ戻って来た。
 薄いピンクの液体と青い液体が注がれているグラス。
 それは透き通っていてとても綺麗だった。
「まだ誕生日は先って聞いたから、ノンアルコールカクテルだ。
 雰囲気は味わえるだろう」
 すっと二本の指でグラスを差し出された。
 私はこくりと頷き口に入れる。
 淡いピンクの液体が、口の中で溶けて広がっていくよう。
 程よい甘さ。
「美味しい……」
 フルーツを炭酸で割ったもので、いわゆるサイダーだ。
「受け取ってくれ」
 ピンクベージュのパールが中央に3つ付いたネックレスを手渡された。
「ありがとう……綺麗ね」
 うっとりと目を細めて笑う。
 会うたびに青からもらったプレゼントが増えていく。
 初めて教えてくれた肌のぬくもりも含めて。
「誕生日でもないのにいいのかな……」
「俺が、贈りたかったんだ。気にするな」
 気づけば目元が潤んでいた。
 慌てて鼻をすするが涙声になってしまった。
 ふいに誕生日を聞かれて教えたのはこの間のこと。
 彼は、そうかと言い、顔を赤らめた。早生まれだからまだ誕生日は来ない。
「恋人ごっこみたいで、楽しいじゃないか」
 ズキ、と胸が痛む。彼は、真顔だ。
「かけてみてもいい」
「かけてやる」
 冷たい手が首に触れ、ぞくりとする。
 彼は、さらと髪を避け、首にかけてくれた。
「よく似合う」
「本当? 」
「ああ。綺麗だ」
 微笑を浮かべる彼につられて私も笑う。

 彼は自分のカクテルを一気に飲み干し、
 その唇で私の唇を塞いだ。
 とろりと流し込まれる物を懸命に飲み込む。
 アルコール度は低いのだろうが、お酒だ。
私にはノンアルコールを飲ませておいて、彼は結局
 口移しでお酒を飲ませた。作戦なのだろうか?
 少しいけないことをしている気分になり気分が高揚した。
 一気に飲み込んだせいで口からこぼれてしまったそれを
 青が舌で舐め取り、深く口づけてきた。
 割り入ってくる舌が、私の口内を執拗に探る。
「あ………」
 口内にびりびりと走る刺激。
 私も口づけを返す。
 舌を絡め口内で混じり合う。
 唾液が糸を引く。
 舌と舌で互いの口腔を吸い尽くし侵す。
 二人の吐息が弾けた。
「はぁっん……せい」
 いつの間にか彼の腕が背中に回り、ワンピースのジッパーをずらしている。
 衣服を剥ぎ落とされ、キャミソール一枚の姿になってしまった。
「い……や」
 途切れ途切れの声で彼に哀願する。
 こんな場所で、明るい日差しの中で抱かれることへの躊躇。
「青……!? 」
 小さな抗議の声も彼には届かない。
 それどころか、彼はキャミソールの中に手を差し入れ、胸を揉み始めている。
「あ……んっ」
 乱暴に掴まれ揉みしたがれて、声が漏れた。
 止まない口づけと胸への愛撫。
 抵抗する力が次第に失われていった。
 彼は優しく強引に私を誘う。
 唇は私の唇を離れ、耳朶へと移動した。
 舌で舐めたり、弱く、強く甘噛みされる。
 息が吹きかけられた。
 耳の中へと舌が割り込む。
 その中を吸い上げられる。
 私はバランスを失くし、前のめりになった体を彼の肩に預けた。
 彼は口元に笑みを潜ませる。
 あの私を虜にした悪魔の微笑み。
 彼が私をかかえて、運んでゆく。
 黒で覆われた寝室へと。
 視界に入ったキングサイズのベッドの上に降ろされる。
 その時、脳裏に過ぎったのは、初めて抱かれたあの夜。
 あの夜、私の部屋でこうやって彼は、私を……。
 それから続いているこの関係
 私の体はすっかり彼ー青ーの温もりを覚えてしまっていた。
 体温も匂いも、仕草も。
 今日で何度夜を越えたのだろう。
 彼は視線を一度も外さず、私を見ていた。
 ピンクベージュのパールを首から外される。
 ベッドサイドランプの側にそれを置き、ランプを灯す。
 キャミソールを唇で挟んでずらされ、下着姿が露となる。
 彼も自分の着ていたものを脱ぎ、乱雑に床へ投げた。
 互いに下着姿だけになってしまった。
 下着の上から再度胸を揉み解され、官能の火がともる。
 胸の動悸は激しくなり、心臓の動きが早くなった。
 首に吸い付いた彼が紅い印を刻む。
 両手では下着越しに胸を揉みながら。

 あまりに気持ちよくて私はシーツの上に倒れこんだ。
 体勢を変え、覆い被さって来る彼の首に腕を回し、私は唇を重ねる。
 応じるように舌が絡みまとわりついてくる。
 互いの口内を這い回る舌に神経が麻痺する。
 その時ふいに抱き起こされた。
 下着の上から胸を執拗に攻めていた手が、
 背に回り留め具を外す。
 プチン。
 同時に私の中でも理性の糸が切れた。

 隠された双丘が彼の前で暴かれる。
 頂点にそびえる紅い尖りが外気にさらされて震えた。
 下腹部を覆う下着も取り去られて私は素肌を彼の前に晒した。
 脱がされた下着が無残に床へと投げられる。
 肌を曝け出した私を彼はじっと見つめる。
「きれいだな」
 その一言にも感じてしまう。
食い入るようなまなざしは欲情を隠しもしていない。
「あ……」
 唇が首筋から鎖骨へと口づけを落す。
 私の肌は赤く色づいてゆく。
 彼は一度口づけを止め、自らの着ていた物を取り払った。
 たくましい体が、私の上に降りてくる。
 均整のとれた胸板指を添わせた。
「せい……」
 胸の頂を口に含まれ、舌で転がされる。
 ついばむように口にしては放す。
 頂は段々と硬さを増していった。
 いたずらに吸い上げられると、甘い声が漏れる。
「……っく……ふ」
 指と唇、両方の愛撫を受けているのだ。
 左胸の頂を指で挟み、吸われ、
 右胸は、手で頂とその周り、房全体を撫で回されている。
 どちらともなく唇を重ねた。
口づけは淡い物の後、濃厚な物へ。
 歯列を割り込んでくる彼の舌に自分のそれを絡めた。
恍惚に身をよじる私の背を彼が抱きしめる。

 きっととろけた表情で彼を見上げているんだろう。
 私の体は彼の思うがままに開かれてゆく。
 ねえあなたも感じてる?
 私は意識が白くかすんでしまうくらいに、感じてる。
 私はあなたを感じさせる事ができているかしら?
 あなたが満足しているならそれでいい。
 彼の指が秘所へと割入ってきた。
 時折、折り曲げたりしながら、次第に数を増やして抜き差しをする。
「あん……っ……」
 五本の指が、奥を突いてきた。
 痛みよりも快い物に体が浮く。
 腰が持ち上がってしまう。
 私の内部が火傷しそうなほど熱くなっているのが分かる。
 両脚を大きく広げて、立てて彼が来るのを待ち侘びているんだ。
 淫らに蜜を零す様も全てを見られて感じる私。
 そんな姿を見られていても、恥じらいより強く感じている。
 共にイきたい。
 同じ夜を越えることで、慣らされてしまった。
 快楽の淵に連れてゆかれ、盲目になっていったの。
 私は、願いをかけるように唇を薄く開いた。
 激しい口づけを交わした濡れた唇で願いをかける。
(せい。私の中であなたを感じたいの。感じさせて)
 掠れた吐息を混じらせ声にならない声で。
 その時、意地悪な彼が、口の端を緩く吊り上げた。
 声にださず唇だけ動く。
(まだだ)
 頂を捻り上げられ、爪で弾かれた。
「ひゃぅ」
 声を上げ体を反らせる。
 彼は頂を弾いた後、指を秘所に再び移動させた。
 外側から内側を掌で撫で、蕾の部分を指で摘みあげる。
「ああああ……はぁ……ん」
 がくんと体が傾ぐ。腰が揺れる。
 指の動きを速めその部分だけを執拗に弄られた。
 指が離れたと思ったら舌が秘所の奥へと入り込む。
 弓なりに反る体を抑えられない。
 意識が溶かされ、落ちていく。
 啼声を上げて、どこまでも広い海へと。
 漂えば溺れてしまいそうになる程の広い海。
 僅かの時でいい手を引いていて。
 この海を一緒に泳いで欲しいの。
 抱き上げられたと思ったら、胸の頂を啄ばむような口づけを感じる。
 少しくすぐったくて変な気分だ。
「……きゃ……っん」
 甘い声でよがればあなたはより激しく私を責め苛む。
 ふわふわとシーツの上を転がり続けると、その先には、深い闇が広がっている。

 呆けて宙に視線を泳がせていると準備を整えた彼が入り込んできた。
 揺さぶられてぐらぐらと体が揺れる。
 鋭く突き上げられた。
 私の中は温かい?
 ああ……あなたは熱くて焼き尽くされそうよ。
 入り口辺りで侵入と脱出を幾度も繰り返されて吐息を漏らす。
 卑猥な水音が、耳に届いてたまらなくなる。
「あ……あ……んっ」
 彼の肩に手を添わせる。
 私の中で動く彼。
 うごめくその度に体が弛緩した。
 無意識に彼を締めつけ、私の中から出られないようにしてしまってる。
「俺が中にいることを感じるか」
「言わせないで」
 とっくに分かってるくせに。
 あなたをこれ以上にないくらいに感じてること。
 強く律動され、ベッドの上で乱れた。
 私の中に潜り込んでいる彼の両脚に自分の両脚を絡める。
 ふいに衝動に突き動かされ、足を組み替えた。
 彼を閉じ込めた形で。
 たまには彼を自由にしてみたい。
 いつも弄ばれているだけなんてつまらないもの。

 妖しく微笑む彼が両手で乱暴にふくらみを掴み、愛撫する。
 腰の動きと、交し合う口づけに体が感じすぎて悲鳴を上げている。
 あられもない声で喘ぎ、彼の肩にしがみつく。
「せい……」
 一気に奥底まで貫かれた。
 私の中の熱を帯びた物が、彼のそれと溶け合う。
 その瞬間、ひときわ高い嬌声を上げた。
 彼は首を逸らし、、私の肌の上に汗を散らす。
 汗の滴が零れ伝い落ちる。
 奥で激しく主張する彼を感じてぴくんと体が震えた。
 そろりと彼の背に腕を伸ばして抱きしめる。
 触れていると確かな温もりを感じるようだった。

 あなたは甘い表情でその巧みな動きで私を昇りつめさせる。
 幸せだけど不安なの。
 あなたがいつ私に飽きてしまうか分からない。
 私もあなたに似合う女になれるよう
 見捨てられぬよう、もっと良い女になるわ。

 腕が彼の体から離れ、シーツへと沈む。
 静寂の闇の中で、求め合う二人の姿が、
 ベッドサイドのライトに照らされていた。
 妖しい姿が闇の中に浮かび上がる。
 時には、私が上になり彼を導き、下になり
 導かれ、体を交わし合う。
 時計の音など聞こえはしない。
 聞こえるのは同じ時を刻む鼓動の音のみだった。


 気だるげな雰囲気が漂う明け方。私は恐る恐る口にした。
「ピル飲もうかと思ってるの」
「止めておけ」
 どくん。心臓が跳ねる。
「どうして? 」
「俺は、無責任なことをするつもりはないから。お前は体に負担かけなくていい」
 言い聞かせるように彼は言う。優しいけど少し尖った口調だった。
「そんなにも、俺と直に繋がりたい? 」
 首から肩、鎖骨を指で辿られる。それだけで、体がざわめいてしまう。
 頷くと、彼は、感情を表に出さず告げた。
「光栄だが、現在はともかく、未来のお前のことまで責任は取れないんだ……。
 利点もあるが、体に負担をかけるんだから」
 その意味を考える。
 産婦人科でも説明をしっかり聞いてきて、ああ、と思った。
 将来、彼の知らない所で、私がどうなろうが関係ないはずなのに、
 それでも、考えてくれている。
 彼は、知っているんだ。
「……私、あなたを信じてる」
 涙がこみあげたのは、自分の幼さ故の浅はかさと、彼が誠実だったから。
 頭を強く引き寄せられて、うめき声をあげた。  
 


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