ついばむ口づけが、深いものに変わったのはいつだっただろう。
 小鳥のさえずりのキスを何度も繰り返し、
濡れた音がお互いを次の行為へと駆り立てたの。
絡められた熱い舌に自らのそれを絡め、ねっとりと吸う。
 意識が溶けそうになるたびに、より強い刺激で引き戻される。
 胸の頂きを摘み弾かれ、高らかな声をあげていた。
「キス、上手くなったな」
 キスの合間に吐息混じりのささやきが耳元に落ちる。
「ほんとう? 」
 ただ舌足らずに尋ね返すしかできない。
 おずおずと差し出した舌は絡め取られきつく吸い上げられ、彼の舌を迎え入れるだけで精一杯だ。
 あごを伝う雫のことなんて、もはや気に留める余裕もない。
 ぷつ、りと途切れた唾液の糸に、霞んだ視界で彼を見上げる。
「ああ。俺がいつの間にか翻弄されているからな」
 キスのことだと分かるのにしばしの時間を要した。
 じわり、涙がこみ上げてくる。
 触れ合わなかった時間なんて数日に過ぎないのに、感傷的になってしまったのか。
「寂しかったんだろう? 」
「うん、あなたに抱かれるのが喜びだから」
 たくましい肩に指を伸ばす。引き寄せたくて。
 しっとりと汗が浮いた肌は、ライトに照らされ艶めかしく光っていた。
「嬉しい事を言ってくれる。お前、俺を暴走させたいのか? 」
「青はいつも優しいからいいのよ。何でも受け入れられる」
(だから、早く、くるわせて)
 小さな音がした。つばを飲み込む音ではない、舌打ちだ。
「っ……あ、んっ」
 いきなり覆いかぶさられ、首筋にキスが落ちた。
 がぶり、歯を立てられている。
 食べられている感覚に陥る。
 彼は歯をたて舌で吸い上げ、痕を残していく。
 痛みが、声を引き出し、奥から濡れた音を連れてくる。
 キスやふくらみへの愛撫で湿り気を帯び始めていたそこは、
 確かめなくても既に、しとどに濡れているのが分かる。
 ひとりで、慰める行為に耽っていたから、私はより濡れやすくなったのかもしれない。
「んん……青っ」
 もどかしく指先でシーツをつかむ。
 舌がちろちろと肌を這う。荒い息が肌に直接触れて身震いした。
「俺を誘うのも上手になったよ。
 可愛らしい姿に惑わされると危険だ。
 本性は男を翻弄する美しい小悪魔なんだから」
(そうさせているのはあなたじゃない。
 美しく妖艶な、魔王さま)
 さらさらとした黒髪、瞳は薄い茶色。
 女である自分が嫉妬するくらいの美貌。
 綺麗な人はこんなにも恐ろしいのだと、青に堕ちた時に知った。
 本能に忠実だが、マナーはきっちり守るのは医師の家系に生まれた人だからだ。
 思考にふけり油断していた次の瞬間、  舌先が、胸の頂点をとらえた。
 唇にはさみ、頂きの周りを周回する。
 もう少しというところで、届かない何か。
 欲していることに気づいていても彼は中々与えてくれない。
 じろりと潤んだ目で睨んだら、
「次に何して欲しいかいいこのさーやは言えるよな? 」
 とんでもないことを言われて、目を見開いた。
「さーやって今言わないでよ」
「そう呼べるのは俺だけの特権だろ」
 息が、かかりびくんとふるえた。
 ためらうことさえ許してくれない。
 いつかのように、大胆におねだりすれば彼は思う存分憂いを取り払ってくれるのだろう。
「す、吸って」
「どこを」
 二の腕を甘噛みされ、小さくうめいた。
 ここというふうに胸を突き出す。自らの指で両方の頂きをはさんだ。
 恥ずかしくて消えてしまいたい。頬が熱い。
 きっと真っ赤になっている。
「お前が可愛すぎるから俺は意地悪をやめられない」
(正当化しないでよっ)
 次の瞬間、強く吸いたてられ、高らかな声をあげていた。
「吸うだけでいいのか? 」
 ぶるぶると頭(かぶり)を振って彼を見上げた。
 何でも受け入れると言った。
 好きなように、私を確かめてほしい。
 彼の頭を胸元に引き寄せるように、抱いた。
 腕を回し、ほんの少し強い力で押しつけると、唸り声がして頂きを食まれた。
 ぱくん、と上唇と下唇の間に捕らえられ、舌がかたい尖りを転がす。
 時折、歯を立てて、捕食する。
 指で触れられている方は人差し指でこねくり回され、快楽から逃れるすべはない。
「はあっん……」
 ちゅっ、ちゅっと音を立て、口づけて唾液をそこにこすりつける。
 口の中に吸い込まれている様子を目の端にとらえてしまい、  思わずぎゅっと目をつむった。
 ふくらみにそびえるそれは、唇から放されるたびに震え、硬さを増す。
 彼の唾液で汚され、濡れそぼって、光っている。
 指を噛む。そうしないと、あられもない声を響かせそうだった。
「馬鹿」
 とがめた青は、私の指をしっかりとつないでくれた。
 彼のやわらかな唇が、私の唇を再びふさぐ。
 片手で両方のふくらみが真ん中に引き寄せられ一度に揉みしだかれた。
 ぶる、っと震え、たまらなくなる。
 自然と開いた脚の間に長い指が滑り込み溝をなぞった。
 青の声が、体に直に響く。
 ひどく満足気に笑ったようだった。
「どんだけ感じてるんだよ。俺が好きって溢れてるぞ」
「っあ……だめっ」
 いきなり蕾から、秘所を素早くなぞられて、背筋が高く浮いた。
 蜜を絡めた指が、蕾を押しては潰す。
 体の内側から、急速に押し寄せてくる波にさらわれそう。
「ちゃんと味わってやるからな、お前の甘い蜜」
 膝を立てられ、腕が押さえつけている。
 さらり、触れた彼の髪にびくんとした。
 もはや、太ももまで濡らしている蜜を、彼は丹念に舐めとっていく。
 肝心の場所には触れずに、足首までを往復する動きばかりをする。
 それでも、濡れて蠢いているそこは、彼を待っているみたいに開いていた。
 自分でも手に負えないから、どうにかして。
「い、いや……そんな」
「よく確かめないとわからないじゃないか」
 彼が指で押し開く。
ぱっくりと開かれたそこを意識していやいやと首を振った。
「綺麗だよ……白い糸が引いてる」
 舌が、濡れたそこを舐めしゃぶった。
 どくん、と心臓が暴れて、体が勝手に跳ね、彼の動きに翻弄されるままに乱れた。
「すごい敏感になってるよ……。
 たまの禁欲生活も悪くないな」
 悪びれない彼は、くすりと笑って、舌先で泉の奥を探る。
 吸われるたびに蜜が溢れる気がする。
 もはや、意識が朦朧として、高みまでわずかだ。
 連れて行って欲しいのではなく、一緒にいきたい。
 わたし、早くあなたを中に受け入れてひとつにつながりたい。
 ささやかな願いをこめながら、甘やかな愛撫に身悶える。
「青……っ」
 名前を呼んだ瞬間、折り曲げた指を、秘所の中に突き立てられた。
 真っ白にぼやける意識の中、彼が、ベッドから移動したのを知る。
 急速に意識が、こちらへと戻ってきた私は、
 荒い息を整えるため肩を弾ませながら唇を開いた。
 反り返った大きなモノが目に飛び込んでくる。
 信じられないほど大きい。これを私は何度と無く自分のなかに導いてきた。
「あ、私……」
「触りたいのか? 」
 こくりと頷き頬を赤らめる。
 初めてじゃないが、触れる瞬間はとてもドキドキと緊張して胸がはりさけそうになる。
 指先で、強張りを突いてみたら、びくんとうごめいて、まるで別の生き物みたいだ。
 恐る恐る手のひらに押し包む。熱い。
 先から溢れる雫が指先を濡らし、彼も私と同じなんだと思った。
 両手で押さえ、唇の中に頬張った。手で触れるだけでは物足りなかったからだ。
 筋を辿るように、舌を這わせ、絡める。
 全部を口の中に迎えることはできないのだけれど、
 彼を唇で愛撫する感覚に酔いしれ、夢中で舌を絡める。
   手でさすりながら、キスをしていたら、更に欲望が膨れ上がり含んでいるのが苦しくなった。
「んんっ……」
 唇から離しかけた瞬間、腰が動き出す。
 愛撫しているのは、私のはずなのに、こちらが愛撫されているみたい。
 シーツに手をついてどうにかこらえていると、口の中でにわかに苦味を感じ始める。
(青が望むなら、かまわない)
 覚悟して待ち受けていたけれど、その瞬間は訪れなかった。
 あっけなく、離れて唇に何故かもの寂しさを感じた。
「唇じゃなくて、中に出したいからな」
 避妊具の封を切り、素早く身につける姿が目に飛び込んでくる。
 つけてあげるつもりが余裕がなかった。
「お前から来いよ? 」
 挑戦的に唇を歪める。
 仰向けになった青が私の腕を引き彼の体にまたがらせた。
「お、重たくないの? 」
「強いていえば、ここが重いかな」
 長い腕が伸びてきて、無防備な膨らみを荒々しく揉みしだいた。
「あっ……ふ……あっ」
 指先で頂きを転がされ、その拍子に腰が沈む。
 一気に彼の昂ぶりを受け入れてしまい、悲鳴を上げる。
 難なく飲みこんだそれを受け止めた私は、ゆっくりと腰を揺らした。
 一気に彼が突き上げてきたため抜け落ちる隙もない。
 彼の繰り出すリズムに揺られるままに体を揺らすだけだ。
 時折前のめりになれば、胸のふくらみを揉まれ、頂きが口に含まれる。
 吸い上げられた瞬間に、絡めとったのか、彼がうめいて、より激しく突き上げ始めた。
 彼のかたちに馴染んだそこは、痛みすら感じず、ただ順応する。
「あっ……ん……青、好きっ」
「ああ……俺も好きだよ。大好きだ」
 前かがみに体を倒し、キスをねだる。
 最初から舌を潜り込ませた深いキスが、新たな快感を呼び覚ます。
 彼の上に横たわり、下から貫かれる。
 お互いの背中に腕を回し抱きしめる格好でつながり合っていた。
「愛してるは聞けないのかな? 」
 余裕たっぷりに、私の奥を昂ぶりで揺さぶりながら耳元でささやいてくる。
「あっ……いっ……いい……」
 波に揺られながら発したのはとても答えとは言えなかった。
 恥ずかしい。
 胸の頂きを摘ままれ口づけてはちゅっと吸われているのだから、
 どうしたら言葉にできるっていうの。
「俺はこんなに愛してるのにな……ここもお前の奥も」
「ひゃあっ……」
 奥を激しく突かれながら、胸の頂きと繋がっている場所にあるソレを指先で爪弾かれた。
 固く膨れ上がった蕾は、胸の頂きと快感が直結していて、ぶるりと背筋が震えてしまう。
涙が、頬を滑る感覚がした。
幾度と無くそれは、頬を熱く濡らし彼の首筋にまで落ちた。
 滑らかに動く舌が、涙のあとを辿る。
 泣くなではない。
いくらでも泣けと言ってくれているみたいに笑ってくれた。
 一度動きを止めて私を見上げてくる。
 ライトに照らされたのは欲にまみれた野性的な表情。ずるいくらいに、色っぽい。
「青、愛してるわ! 」
 半ば泣くように叫んだら、ふいをつかれたのか、彼は動きを止めてこちらの顔をのぞき込んだ。
「俺も愛してる」
 ちゃんと言ってくれて嬉しいよと唇の動きで伝えてきた彼は、それから容赦なく突き上げ始めた。
 荒々しい引力に、必死で食らいつく。
 少しでも長く感じ合っていたくて、瞼をうっすら開いて彼を見下ろしていたけれど、
 いきなり膨れ上がった彼自身に貫かれた瞬間抑えきれない声を上げた。
 薄膜越しにどくどくと何度も情熱が注がれる。
 遠ざかる前に、優しく甘やかなキスが私を満たした。
 気がついた時、横向きで彼に抱きしめられていた。




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