闇の中の終焉



今日であなたと会えなくなる 。
今日であなたに愛されなくなる 。
それでもあなたの姿が見たくて、
共に過ごした過去を思い返す。
朝と夜の記憶しかないけれど。

あなたには別に帰る場所があるから 。
これでお別れ。
あなたを縛りたいわけではなかったから。

ありがとう、
今宵で幕を下ろしましょう。



取り残された部屋の中でぼんやりと天井を仰いでいた。
温もりが融けていく。
この腕の中、あの人がくれたもの全て。



今日こそはこの思いに終止符を打とう。
そう思って帰ろうとする彼に強請った。
もう最後だと心に決めて。
「抱いて」
一瞬、驚いたようにこちらを見る彼。
こんな風にせがんだことなんてなかったものね。
いつもなら言えなくて見つめるだけだった。
彼は淡い微笑と共に答えをくれる。
私の体を横たえたながら、口づけを降らせる。
私は視界に幕を下ろし、身を委ねる。
これで終わりを迎えるの。
彼の腕の中は いつも温かくて眩暈がしてしまうようで。
義務のように私を求めて、
それでも越えちゃいけない部分は越えなくて。
微かな理性。
私だから彼はそれを保っていられるのだ。
何かを残して欲しくて小さく期待していたけれど、
私の抱えちゃいけない望みはかなえてはくれなかった。
最後であるはずの今日も。
本当にあなたは優しくて残酷な人。
いつも彼女だけを愛しているのね。
だから目が離せない。
好きだったわ。
初めてあったあの瞬間から。


背中に爪を立てる。
甘い吐息に意識が途切れそうだ。
離れたくない。このまま時が止まってしまえば良いのに。
初めてそう思った。
私がそんな風に感じていても
彼が、幾分冷めた目で私を抱いているのがわかるから
余計に求めてしまう。

冷めた眼差しの中に光る鋭さ。
その視線が痛くて私は必死で瞳を逸らす。
けれど意地悪な彼は、私のあごを持ち上げて
上を向かせる。
自分を見ろと言わんばかりに。
涙が零れた。
溺れた私が悪い。
でも酷い。
「本来なら会うはずはなかったんだ。
俺の為なんかにそんな悲しい顔するな」
心を見透かしたかのごとく彼は言った。
私の隣に横たわり、タバコを咥える。
用がすんだと心から聞こえてくるみたいでたまらない。
胸に突き刺さる彼の言葉。
「そうね……」
気だるくてそれ以上何も言う気がおきない。
私は彼に背を向けるけれど、
するりと力強い腕が伸びてきて抱き寄せる。
「あなたとのこと後悔してないわ。
この部屋にいる間は 幸せだったもの」
涙混じりに彼に言う。
今更別れが辛いわけじゃない。
いつ終わるかしれない関係だったから。
「……愛してたよ」
ここにいる間はお前だけを。
声にしていない最後の部分がわかってしまっても
それでも悲しみよりも嬉しさの方が強い。
彼が求めていたのは、「ココロ」じゃなく「カラダ」
だけだったけれど、ここにいる間は精一杯演技してくれてた。
愛しているふり。
嘘の優しさを振りまき、
激しい力で私を狂わせて。
ここであなたと私の線が途切れたの。
紛れも無い事実に、零れ落ちる涙がシーツを濡らす。
「お別れなのね」
確認ですらない問いかけ。
さらりと私の髪を撫でて、彼は立ち上がり衣服を羽織り始めた。
そして振り返る。
「きっとお互いに残したものは傷だけではないさ。
それだけは忘れてほしくない。そして俺のことは早く忘れろ」
淡々と甘い声を響かせて彼は最後の優しさをくれた。
その彼の後姿を見送って、私は枕に顔を押し付け涙を流し始める。
パタリと乾いた音がして扉が閉まり、
私の世界から消えていく。
扉は二度と開かない。
私に全てをくれなかったあの人。
それは未練を捨てさせる為の優しさだったのかもしれない。

彼が愛してくれたこの黒髪、しばらく鏡に映したくはない。
思い出して切なくなるもの。
髪が匂いと指の感触を一番覚えてる。



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「モノカキさん30お題」でこのお話のその後の番外編を書きました。
ヒロインの心情のモノローグです。本当に短いですがよければどうぞ。

And that's all ...?(それでおしまい)>>

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