君は誰



大きな鏡を境んで二人の少女が立っている。
似ているようでどこか違う。
そんな二人だ。
だから、互いに引き込まれるのかもしれない。
両手で鏡に触れ、行けはしない向こう側への憧憬で
胸が満たされているのだ。
「あなたは誰? 」
長い黒髪と黒瞳の少女は大きな目を瞬かせて、
鏡の向こうにいる少女に 語りかける。
「君こそ誰なんだ。私によく似ているけど、正反対に見える君は」
まるで少年のごとく低くクールな声音。
髪の色は暁。焼ける夕闇の色と昼の澄んだ青空の瞳。
「私達は光と影なのよ」
「え……? 」
ふと漏らした黒髪の少女に暁の少女は首を傾げた。
「私達、顔は同じ作りなのに、髪の色とか
瞳の色が、別の色彩でしょ。」
まさか、彼女に会えるなんて思わなかった。
「鏡越しじゃなくて側にはいけないのだろうな」
抑揚のない調子でいう暁の少女。
光と影なのだから、会えるはずもない。
「そうね。私があなたに会えるなんてこんな不思議なこと
ありえないはずだったから」
黒髪の少女から漏れる少し寂しさを含んだ声。
「鏡に願いをかけたのでしょう。自分の影に会いたいと
そう希ったのでしょう」
問いかけですらない確信で呟かれた言葉に、暁の少女は
苦笑いした。自分と顔はこんなに同じなのに、こんなにも違う。
自分にはない鮮やかな微笑み、可愛らしさ。
冷めた目で周りを窺いながら生きる私は、ずっとこんな風に
なりたかったのだ。
「そうだね。君のようになりたかったんだよ。
自分で自分を慰めながら生きてた。所詮、作り物だったんだ、
クールとかでもないし、到底憧れの対象なんかじゃないよ」
暁の少女は自らを罵り、嘲笑う。
「私のようになりたかったの? 」
黒髪の少女は淡く微笑んだ。
「おかしいのか」
「ふふ、だから私があなたの影なのね」
「私は”あなた”なのよ。いつも側にいるじゃない」
鏡が、閃光を放ち、黒髪の少女が暁の少女の方へ……。

「影と本体が離れていては、よくないのよ」
暁の少女の中にふわと体に入り込む。
溶け込む。
本来の主の中へと影が戻り、鮮烈な光が消えてゆく。
「何だったんだろう」
宙を仰ぎ見た後、暁の少女は、両手を広げる。
その時、どこからか声が聞こえた。
はっとした彼女は自分の内側(胸)を見つめた。
(レイ……。私はあなたの一部。
確かにあなたが持っている本質。自分を好きになって)
優しい声が内側から響いていた。
それはテレパシーに近いかもしれなかった。
「君は私なのだものね」
安堵した表情を浮かべ、彼女は瞳を閉じた。
自分の中にいるもう一人を思い描く。

きっと信じられる。
もっと強くなろう。

気付けば少女の口元は笑みを刻んでいた。
あの黒髪の少女と同じ鮮やかな微笑を。

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