22. 密室


「んん……っ」
壁に体を繋ぎとめられた私は、無理矢理唇を塞がれた。
ずっとずっと憧れていた。
シニカルな笑みと人懐っこい笑みが同居する不思議な彼に。
「いっつも俺のこと見とったんやろ? 」
私が知らない笑い方で彼は笑った。
「……知ってたの? 」
「あんな熱視線浴びせられて気づかんわけないやん。
射殺されるか思ったで」
笑いながら彼は口内を蹂躙する。
熱い舌が私のそれを悪戯に刺激した。
「京……さん? 」
躊躇いがちに名前を呼んだ。
声が震えていたかもしれない。
「俺と一緒に暮らさへん? 」
強く腰を抱かれ、耳朶を噛まれる。
耳元で吐息を感じた。
思わず私の頭がどうかしてしまったのかと思う。
彼と一緒に暮らす?
「名前、呼び捨てでええって」
「京? 」
「それでええ」
ヒールを穿いた私と彼の身長はほぼ同じくらいだった。
「黙ってるってことは肯定とみなしてええんや? 」
私は嬉しくて仕方がなかった。
夢みたい。
「……あなたと一緒に暮らしたい」
「一回言ったことは撤回できんからな」
京は冷たく、優しく微笑んで私の腕を引いた。
内部が黒いカーテンで覆われた車の中へ京は私を乗せた。
私が助手席に座ると、あっという間に車は動き出した。

高級マンションの屋内駐車場に車を停めた京は、私を降ろし、腕を引いて
歩いてゆく。エレベーターは、最上階まで私達を運んだ。
隅っこにある部屋の鍵を開けて、京は私を中に入れ、後から
自分も入ってその扉を閉めた。赤い寝室に誘導される。
「伶美……」
耳元でゾクッとするような声。
カチャリ。後ろ手に扉が閉まった。
私はこの部屋から二度と出ることはなかった。


心の鍵も、扉の鍵も京が支配していた。


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