抱き合う



  深紅の魚と朱金の魚が今日も闇に熔けていく。
上がる波飛沫は想いの表れ。
同じ海に生きる二つの光は、弾けること知らず
互いが互いを耀かせ続ける。



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幾度も重ねた夜。
何度肌を合わせようとも、保ち続ける無垢とは、 反対に増していく色香。
女の部分を垣間見せ、少女のようなあどけなさも未だ失わない。
そんなお前に今日も魅せられる。
豪奢な部屋の寝台の上。
二人は互いを求めて縺れ合うように倒れこんだ。
口付けを交わしながら、深紅の青年ー闇主は
朱金の女ーラエスリールーの衣服を剥いでいく。
焦らすような仕草で。
ラエスリールは羞恥に頬を染めながら、
青年に身を任せている。

闇主はラエスリールの唇に舌を絡め口腔を吸い尽くす。
吐息が溶け合う。
舌が口内を犯され、ラエスリールの体の力が抜けていく。
それを確認してから、闇主は自らの唇が段々と下降させる。
ゆっくりと唇から顎へ。
顎から首、鎖骨へと。
なぞる様に滑らせていく。
じわりじわりと言いようない感覚がラエスリールの内に広がる。
その時、闇主の唇が、一番敏感な部分に触れた。
「あっ・・・」
ラエスリールは声をあげて、反応する。
ゾクリと背が粟立つような・・・。
闇主はそっと胸に唇で触れてついばむような口付けを落とす。
片方の胸を唇で、片方は手で揉みしだき愛撫する。
どこまでも優しい仕草。
決して彼女が不快に感じようもないもの。

堕ちていく
今宵も彼の中へと。

くらりと意識が傾く。
体を滑る闇主の指に、快感が呼び起こされる。
彼の首に腕を巻きつけ、ラエスリールは視界の幕を下ろした。
「ああ・・・ん」
高い声が上がる。
闇主の動きが段々と激しいものに変わる。
ラエスリールの求めに応じていたソレから、
自分の欲望を満たすソレへと。
指を差し込んだそこは彼女の秘所。
時には折り曲げたりしながら出し入れを繰り返す。
その指を受け入れるたび、ラエスリールの体は
やわらかくなり、闇主自身を受け入れやすいものになる。
「・・・ラス」
「闇主・・・」
彼の呼びかけに狂おしい声でラエスリールが啼いた。
懇願するように瞳を潤ませ、彼の瞳を見つめる。
それが合図だった。
闇主はラエスリールの足を高く抱え上げて肩に乗せ、
鋭く突き上げた。
ラエスリールの背筋が反り、宙に浮く。
抱えきれない熱が内に忍び込む。
痛みよりも感じる恍惚に身を震わせて、
ラエスリールの表情に火が灯る。
艶を増した体が、今まで以上に彼を求める。
「くっ・・・」
闇主が微かに苦しそうに呻いて時折動きを変えながら、
ラエスリールの中を味わうように動く。
同じ一つのものになれば、切なくて唇を噛むこともない。
その想いがあるから、速度を上げて、彼女の中に自分の印を残す。
誰にも奪われないよう己のものであるという証を注ぎ込む。
まるで子供が自分のおもちゃを独り占めしたがるように。
緩やかに、時にはリズミカルな動きで、蹂躙する。
自分を叩きつける。
闇主が動くほどに背中の爪痕がふえていく。
押し付ける身体に滴り落ちる汗。
互いの汗でひどく濡れてしまっている。
それでも汚らわしさなど一つも感じない。
どんな淫らな行為も二人をより美しく魅せる。

絡み合う。
まだ足りない。
もっと欲しい。
俺はラスが。
私は闇主が。

貪欲な想いは満たされることなく、
どこまでも欲張りでわがままな感情が揺らぎ続ける。
闇主は律動を止めぬまま、ラエスリールの肌に指を添わせ、
舌で頂を舐め上げ、手のひらで包み込むように愛撫する。
「はあ・・・ん」
ピクリと跳ねる体。
魚のようにしなやかな動き。
弓なりに反った体が寝台の上を上下する。
強く軋む音。
思いの深さ故に、伝えきれないから 何度も何度も重なり合う。
口付けを交わしながら、二人の位置が入れかわる。
広い寝台の上を転がるかのように。
心と体。
別物であって、切り離せないもの。
心を繋いで、体を繋ぐ。
「あ・・・・しゅ」
ラエスリールは、くぐもった声を漏らす。
二人は体を離さずに、微かな距離さえお互いの体で埋めていた。
「綺麗だ」
神経まで溶かす低い声で闇主は彼女に囁くと
グラリと身体のバランスを崩して反応する。
「・・・・っ」
その言葉だけでどうにかなってしまう。
否、言葉以外の行為でも何度感じたか分からない。
「お前は可愛いな」
言葉ひとつで酔わせた後、
傾ぐラエスリールの身体を支えて、突き上げる。
熱を与える。
耐え切れない快楽の波にラエスリールは闇主の背中に爪を立てる。
高まった熱が互いに限界まで近づいていた。

何て鮮やかで華やかな常ない……。
  ーどこまでいけば二人が同じものになれるのだろうー
ひとつになりたいと、希ってもきっと永久に叶わないのだろう。
また自分の体に戻れば、熱が冷めてしまうから。
体を合わせていない時間は何よりも孤独を感じさせる。



いつまでもこの夜の海を泳ごう。
二人寄り添い、魚になって。



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