キッチン
沙矢のエプロン姿は可愛いって言うと何だか馬鹿っぽく聞こえるが。
とにかくキッチンに立って一生懸命料理を作る姿は、そそられる物がある。
邪だけれど見てると悪戯したくなるんだよな。
例えば、後ろから忍び寄って……。
青は、沙矢の後姿を見つめていた。
女なら誰もがゾクっとするような微笑を浮かべ、熱心に愛しい女性
に視線を送っている。
当然、沙矢も送られる熱視線に気付いていた。
「さっきから、ずっと見てるでしょ。何か用でもあるの?」
青を振り返り、沙矢は小首を傾げた。
「いや、別に?」
ニヤというあの邪笑。
沙矢はただならぬものを感じた。
「怪しい。企んでるわね!?」
つかつかと青の座る椅子の方に歩いて来る沙矢。
既に墓穴を掘っているのだが、悲しいことに彼女は気がつかない。
「喉渇いたんなら何か飲む?」
「飲むだけじゃ物足りないかな」
得体の知れない笑みを浮かべ、青は指先で沙矢の顎を捕らえた。
「……や」
口調はしどろもどろだ。
見つめられているだけでどうにかなりそうで、懸命に視線を逸らす。
心臓はばくばく状態だった。
「可愛いよな本当、お前って。俺に見られるだけで感じてるんだ?」
「か、感じてるって……何言って」
頬を真っ赤に染めて沙矢はうろたえた。
クスクス笑い、青はそのまま彼女の唇を奪う。
「ん……ふぅ……っ」
息も出来なくなる。濃厚なディープキス。
幾度となく歯列を割り侵入する舌が激しく口腔を侵す。
次第に体の力が抜けていく。
バランスを崩しかけた沙矢の体を青は抱き上げ自分の膝に乗せた。
きっちりと腰に腕を絡めて身動きを取れなくする。
「せ、青。ガスを」
未だ料理の最中だったのだ
青は仕方なく沙矢の体を解放した。
妖艶に笑い、舌舐めずりした。
沙矢はぶつぶつぼやきながら、料理を再開する。
「邪魔しないでよ。もう……青、いっつもそういうことしか頭にないの!?」
怒るのではなく少し恥ずかしそうに。
今更、彼に怒った所で効くわけはなく、はぐらかされるだけというのは
目に見えていたからぼそぼそと小さな声で呟く沙矢であった。
それにしても飲むだけじゃ物足りないって、青ってばそんなにお腹空いてるのかしら?
確かに今日はお休みで午後まで青の無茶のせいで寝てたし、
まだ一食しか食べてないわ。夕食までの時間に間食もしてないだろうし。
「青、お腹そんなに空いてるの気付かなくてごめんね。
すぐ作るから待って。大人しくしててね!」
最後に一応つけくわえる沙矢の律儀さに青は苦笑した。
(分かってないな。甘いぞ、お前。)
彼の心の声が聞こえたなら、沙矢はどう思っただろうか。
「……冷蔵庫にビールが入ってるから飲んだら」
沙矢は冷蔵庫を開け、350ml入りの缶ビールを取り出した。
アルコール度5%。青にとっては、ジュースと変わらないらしい。
「サンキュ」
青は微笑んだ。
「……ど、どういたしまして」
沙矢は彼の甘い微笑みにまたドキッとした。
(わざとやってるわね、絶対! しかもウィンクなんて……
そうやって腰砕けにさせる魂胆なのかしら)
「はあ」
溜息がつい漏れてしまう沙矢に、後ろから忍び寄る長い足。
「俺の前で溜息つくなんていい度胸だ」
青は沙矢の耳に息を吹きかけた。
「……あ」
沙矢はくたっと体のバランスを崩した。
よろよろと地にひざまずく。
「こりゃあ治療が必要だな」
沙矢の心臓が高く音を立てる。
(もう何度も抱き合った仲なのに、何故沙矢はこんなに初々しく反応するのだろうか。
こんな彼女を見ていると嗜虐欲を煽られてたまらない)
自分の中の嗜虐的な感情が目覚めてるのに苦笑し、ガスの火を止める。。
幸い、煮込み料理だったので今止めようが支障はない。
彼女の料理も美味しいが、彼女の方がもっと美味しいから。
青は、床に膝をついている沙矢の背中を支えた。
ふわと柔らかな温もりが身を預けるように倒れこんでくる。
青が沙矢の耳朶を軽く甘噛みすると、
「……ふ……あ」
小さく体が跳ねる。
歯列を添わせ、吸い上げると敏感な体が震え始める。
「や……あ……ん」
青は腰を支えていた両手を上に移動させ、胸の膨らみを揉み込んだ。
耳朶に噛んだまま、ゆっくりと両手で膨らみの柔らかさを確かめるように揉みしだく。
「後ろも好きだが、顔が見えないのはつまらないな」
そう言い、青は彼女の体を反転させ、組み敷いた。
「い、いや、こんな所で……なんて」
沙矢は、潤んだ瞳で青を見上げた。
「そんな目で俺を誘うくせによく言う」
青は意地悪く口の端を吊り上げる。
「だ、だってそれはあなたが」
「俺に抱かれたいだろう?」
「な……そんな……でも昨日の夜も」
抗っているとはいえない切れ切れの弱い声。
「お前は底知れないからな。飽きないんだよ。
お前みたいな女は初めてだ、俺が翻弄されるのは今までもこれからもお前だけだよ」
殺し文句の羅列だけれど、青の瞳は真摯だった。
「青……」
嬉しそうに微笑む沙矢だが、次の瞬間、言葉を失った。
「折角、キッチンでするんだし、趣向を凝らそうか」
マンネリばかりもつまらない。
うっすらと笑い、青はおもむろに立ち上がった。
テーブルの上の缶を開け、それを手にし、沙矢に近づく。
「何する気……!?」
後ずさろうとした彼女であったが、運のないことに後ろは壁だった。
「きゃあっ!」
青は優雅な仕草で缶を傾け、エプロンの上から沙矢の体にぶちまけた。
缶には一滴も残らぬよう全てを彼女の服にかける。
琥珀色の液体がエプロンに大きく染みを作る。
この分だと下着まで濡れてしまったかもしれない。
「すっごく冷たいんだけど」
「悪い。手が滑った」
あけすけな態度だ。
(趣向を凝らすって一体何なのよ!)
沙矢はきっと大きな瞳で睨みつける。
すべて逆効果なのだが。
「綺麗にしてやらなきゃなあ」
「結構よ」
「安心して俺に任せておけ」
だから安心できないんじゃないのと言いかけた唇は、青のそれで塞がれた。
沙矢は覆いかぶさってきた青を払いのけられない。
両手をしっかりと掴まれ、押えつけられている。
「……やっ」
青が胸元に顔を埋め、片方の手で胸を揉みながら、服の上から頂を吸い始めた。
さすがに下着を付けている為に硬くなっているのかは分からないが。
「あぁん」
エプロンと服は派手に汚れてしまっていた。ビールで濡れた服が気持ちが悪い。
「……ほろ苦いな」
胸元の辺りに大きな染みがあるのは彼の計算だろう。
「脱がなきゃ不味いな」
「着替えてくるから退いて」
「嫌と言ったら?」
「言うとは思ったけど」
沙矢は身動きが取れず青のされるがままだった。
20センチ以上身長差のある彼は長身で、とてもではないが太刀打ちできない。
「うう」
「黙っとけ。すぐに綺麗になる」
青は服の上から汚れた場所を舐めていく。
「普通に飲むより断然美味い」
「おかしいんじゃないの?」
青はクスと笑いながら口でエプロンを剥ぎ取った。
「やっぱり脱がなきゃいけないみたいだぞ」
そう言いながら青は、沙矢の服の中に手を忍び込ませた。
「濡れてる」
あれだけ大量のジュースは全て沙矢の服が受け止め、生地が液体を吸い込んでいる。
青は片手をスカートの中に差し入れ、下着の上から指でそこをなぞった。
「何でここも濡れてるんだ」
撫で回す。
「きゃあ」
適度に湿ったその場所。
指先で触れられるたびに沙矢の体がぞくっと震え、湿り気が増す。
「着ている意味がないんじゃないか」
ブラウスのボタンが外され、スカートの中の下着を引きずりおろす。
沙矢はあっという間に肌蹴たブラウスとスカートだけの姿にされてしまった。
「や……だ」
「可愛い声出すなよ。我慢できなくなるだろうが」
青は沙矢の耳元で囁いた。
甘い低音にぞくぞくとしてしまう。
青は歯列を割り、舌を差し入れた。艶めかしい動きで彼女のそれに絡める。
いやらしい音が響く。
「はぁ……」
沙矢も彼に応え、口づけを返している。
息もつけぬほど熱を奪い合う。
青の両手は柔らかく膨らみを包みこんでいた。
プチンと下着が外される。
白い液体は、やはり肌にも滴っていた。
とろりとした感触に沙矢は身を震わせる。
ペロリ。青は鎖骨の窪みから胸の膨らみまでをゆっくり舐めて行く。
時折きつく吸い上げるとうっすらと赤い痕が浮かび始めた。
体を反らせる沙矢を青が抱き上げ、自分の膝に座らせた。
両足を絡め、向かい合っている格好。
青は、沙矢のスカートを脱がせ、
自らも衣服を脱ぎ捨てボクサーパンツのみの姿になった。
未だ濡れた箇所が残る沙矢の体に丁寧に口づけて行く。
「あ……あぁん」
跳ねる沙矢の体を青が強く抱えこむ。
沙矢も青の背に腕を回した。
青は強く膨らみを揉み込み、直に頂を口に含む。
吸い上げるとどんどん頂は硬さを増していく。
強い刺激を加えると背に回された沙矢の手が鋭く爪を立てる。
秘所は充分に潤っていて彼を迎え入れる準備が整っていた。
「いいか?」
無言で首を小刻みに揺らす。
それが彼女にとっての肯定だった。
青は、ボクサーパンツを脱ぎ捨て床に放ったスラックスのポケットの中から
取り出した避妊具で準備を整え、沙矢の中に腰を沈めた。
高温の炎が彼女を包み込む。
「ああ……は……あん」
途切れることのない喘ぎが漏れ始める。
青は、しっかりと腰を支え、沙矢の最奥部を目指す。
己をかき回し、一度、抜け出た後、また侵入し、律動を開始した。
ぐらぐらと互いの体が揺れる。
「……ああぁぁん」
向かい合った姿勢なので密着度が高い。
きつく締めつけ、沙矢は青の動きに応じる。
「あまり持ちそうも……ないな」
いつもの冷静さを失った声で、青は呟く。
それほど余裕がなくなっていた。
腰を前後させ、己を叩きつける。
「はぁ……はぁ……は……もうこれ以上は」
沙矢が掠れ声で終わりを合図した。
その言葉を受け止め、一度彼女の中から抜け出た後、
青は、一気に最奥を突いた。
一旦腰を引き、口づけを交わしながら、もう一度その場所を刺し貫く。
甲高い啼き声を上げて、沙矢は達した。
倒れこんでくる体を受け止めた後、青も達した。
床に寝転がる。
繋がったままでいるとこれ以上にないほど沙矢を感じられる。
青が常に感じていることだった。
暫くそのまま二人は火照った肌と肌を重ね合わせていた。
青はジュースが床に零れないよう計算して、沙矢に全部かけてしまっていた。
多少は床も汚れていたが、これは青の責任なので、
当然の如く、沙矢は彼を無視して着替えに向かう。
着替えを終えてすっきりした表情で、戻ってきた沙矢は、
体に未だ残る余韻を感じながら、料理を再開した。
彼の変態さ加減がしみじみと身にしみていた。
戻る。