睡眠不足
伸びてきた手が頬を撫で髪をすく。
彼の上に跨った大胆な格好で、スラックスのチャックを開けた。
触れると温度が伝わってきて心臓がひとつ鳴った。
そのまま、一時停止してしまっていると空いている方の手を掴まれた。
「やる気あるのか? ほら、俺がお前を愛撫しているときを思い出せ」
ぱっ、と頬が赤く染まるも、一瞬で意味を理解してこくんと頷く。
手のひらを忍ばせて、ゆっくりと上下に動かす。
ちら、と彼に視線を向ければ、とても愛おしそうに私を見つめていた。
あなたを導いてあげたいと、言ってしまったあの時、
本当はやり方なんてわかっていなかったのだ。
ただ、あなたに触れたい。その一心で。
割れ目を辿るように何度も撫でていく。段々と硬くなる。
青の吐息が、微かに聞こえてぞくぞくとして、
こちらも息が荒くなってしまう。
唇で触れていないのに湿った音が、かもし出されてきた。
「そんな目で見られたらどんな気になるか、分かってる? 」
そんなこと言われても分からない。あなたについ視線を留めただけ。
キスしたくなって、唇を寄せるとびくんと震えた。
あまりにも生々しくて、これが彼の象徴なのだと愛しさがまた溢れてくる。
キスを繰り返し、舌を沿わせる。唇の中に含ませる。
自分の秘めた部分を丁寧に触れてくれたらとても嬉しい。
だから、同じようにすればいいんだ。
少し苦しい。手で愛撫している間に容積を増していた。
全部は無理だ。舌を這わせて吸う。
繰り返していると突然、頭を掴まれて、はっとする。
強くはないけれど、しっかり押さえられていた。
「口じゃない場所にいれて欲しいんだろうけど俺も楽しみたくなった」
瞳が潤むのが分かった。
言われて嫌なのではなくて、彼が急に腰を動かしたからだ。
口いっぱいに彼を含んでいるせいで、言葉にはならない。
くぐもった声が漏れた。
「っ……はあ……」
唇から離れそうになった為、より強く押さえられた。
ナカを擦られているのとは違う。
それでも、確かに感じてしまう。
「っ……青……大好き」
決して、私に負担をかけないように彼の動きは緩慢で、
限界まで膨れ上がった欲望に、高鳴りがうるさくなる。
どくどくと脈も打っていて、彼のもう一つの心臓みたい。
感じてくれている。それが何より嬉しくて。
主導権なんていらない。
結局導いているのは青だもの。
大好きでたまらないから、何もかもを捧げたいの。
「お前が可愛すぎるから悪いんだ。おかしくなる」
思わず彼の腰に抱きついたら、すぐに組み敷かれた。
下着越しに指で触れられたら、湿った音がした。
「へえ、ご奉仕で感じたわけだ」
独特の邪笑を浮かべる青を見上げる。
彼は猛る熱の塊に、すばやく避妊の準備を済ませた。
食い入るように見ていた私に、変ったなと青は耳元に唇を寄せた。
今更ながら意識して頬が熱くなる。
さっきまで、手と唇で触れていた……。
「あなたも変ったの? 」
「俺はお前と過ごす程に知らない自分を知っていってる」
とびきり甘い声音と表情に、頬が緩んでしまう。
こんな時に笑って、変じゃないかな。
髪を撫で梳かれ、心地よくなっていたら、
「たっぷり礼をしてやるよ。楽しめよ、俺とのメイクラブ」
心臓から震えが体中に伝わった。
唇が、触れて、軽いリップノイズが響く。
準備を整えてもいきなり入ってきたりしない。
「いつもなら抱く直前まで脱がないだろ。けど、今日は勝手が違うから」
さっきまで彼を愛撫していた唇を慈しむような甘く優しいキス。
私との時間を大切にしてくれているのを正直に教えてくれる。
もう、とっきに体は火照って、潤んだ場所は彼を待ち受けているけれど、
こんな風な時間が長く続くのもいい。
絡んできた舌に、舌を絡める。
舌を吸われて、こちらも吸う。
「ふうん。さすがに舌使いも上手くなってるな。本当にさっきはどうなるかと」
「どうなるかと? 」
「無邪気なのも罪だぞ」
笑いながら言われて、きょとんとする。
「あ、あのね……もうすぐ誕生日なの。そうしたらピルを飲み始めたくて」
頬に口付ける彼の耳元にそっと囁いた。
「何故? 」
聞き返す声に、恨めしい気持ちになる。
「直に抱かれたいんだもの」
語尾が震えたのは仕方がない。
ものすごく勇気がいった。
「膜越しでも、直でも快感は変らないんだよ。
それでも気持ちは変わらないのか? 」
「……うん。直に抱かれるの夢だったから。
それに、安定してないし」
周期を安定させて体調を整えたいというのもある。
「それは、お前が若いせいだろう。
20歳過ぎたら、自然と安定してくるものだ。
もっと時が過ぎてから、変わらなければその選択もあるが、
俺は、避妊具も併用するつもりだよ。少なくとも」
耳元でささやかれた四文字に、顔を赤らめた。
「俺の病院で、女性の産婦人科医に診てもらえ。
体調のことも含め検査して、OKが出たら処方されるだろう」
「はい」
具体的に言われて、はっ、とする。
素直に返事をすると頭を撫でられた。
すごい人と付き合っていたんだなと改めて思う。
「とりあえず早く楽しみたいんだが」
「あっ……」
いきなり衣服をくつろげられて、地肌に吸いつかれる。
鎖骨から、胸元へと唇が辿っていく。
とりあえず、首はやめておいてくれたらしい。
痛みよりも強い感覚で、全身がざわめく。
下着を外された時、自ら腕からブラジャーを引き抜いた。
自分の行動に自分で驚く。
ニヤリ、口元を上げた青が、頂を爪弾いた。
頂を指で捏ねては弾く。
電流が駆け抜けて腰へと響く。
「相変わらず敏感で結構なことだ」
くっくと喉で笑われる。酷く卑猥で艶めいている。
固く張りつめた頂に息を吹きかけられて、びくんとした。
体じゃなく奥へと通じる場所が震えたのだ。
「ん……ああ」
唇に固い頂が含まれ、秘所の側でも溝をなぞられている。
「濡れすぎ。拭っても次から次へと溢れてくるぞ」
かっと顔が火照った。
ぞくぞく、とした感覚が駆け巡る。
気持ちの上でもちゃんと結ばれてから、より神聖な気持ちで抱かれていた。
抱かれたくて、抱きたい。彼を包んであげたい。
胸をもみしだかれて、高らかな声を上げる。
掬うように頂をくわえて転がされた。鋭く歯を立てられて噛まれる。
「ん……あっ……あ! 」
きゅんと奥が疼く。じわ、と更に潤んだのを知覚した。
ぶるぶると震える腕が、シーツを掴むが、指が滑ってしまう。
しっとりと湿った肌を、熱い舌と指が這った。
もどかしくなって、膝を立てて擦り合わせたら、両腕が強く押さえつけて脚が開いていった。
吐息が、秘所にかかり、体が大きく波を打った。
「どうしてほしいんだ。今日は思い切り可愛がってやるから」
「っ……あ……あっん」
密を擦りつけた指が上下になぞる。
奥に忍ばせる事はなく外側で指が揺らめく。
「欲しいの……早く……っ」
息を荒げて呟く私に、くすくすと笑う声が体に触れる。
青が、変な位置に顔を置くから奥まで響くみたいで、どうにかなりそうだ。
「ちゃんと、言えるよな。何をどうして欲しいんだ? 」
かあっ、と全身が炎と化すようだ。
快感で高まっていた熱が羞恥にも染まる。
「あなたの……をいれて」
「いい子にはご褒美をやらないとな」
「んん……っ」
悪戯な指が、固く立ち上がった頂をこね回し、濡れた茂みを優しくなぞる。
声にならない叫びを上げて、彼の背中に腕を回した。
「待てよ。な? 」
あくまで余裕を崩さずに彼は言って、深くキスをした。
中で動く時みたいな卑猥で性的な口づけ。
舌を何度か絡めながら、指が中に忍び込んだのを感じた。
ざらついた場所を擦って、突かれてあっけなく、意識を手放した。
「は……あっ……ん」
ぐったりとシーツに腕を投げ出す。
体を弛緩させながら、半開きの瞳で、立ち上がる彼を確認した私は
そっと瞼を伏せて、指先が絡められたのを感じて瞳を開けた。
「愛してるよ……」
「ん……愛してる。前からずっとよ? 」
くすっと笑ったら、頬を軽くつねられて耳元に直接言葉を注ぎ込まれた。
「自分もお前もだましてたんだよ」
本当は全部知っていたのに。
ぎゅっと、首に腕を絡める。彼が、近づいて私の中へと訪れようとしている。
秘所で、蜜をからめて中へ入り込んだ。大胆で繊細な動き。
喘ぎは、彼の唇に封じこまれる。
首筋を伝う汗と唾液。
激しく交わすキスと、繋がる体。
小さなベッドの上で隙間なく密着していた。
頬に手を伸ばす。すべらかな肌には、
髪からの汗が伝いぞくりとするほどの色香が漂う。
自分を棚に上げているのは青の方だ。
(無自覚に惑わして狂わしているのはあなたの方じゃない? )
「ん……ふあぁ……っ」
抱き上げられ膝の上に乗せられる格好になる。
広い背中にしっかりとしがみつく。
解けても、またこの手を伸ばせばいい。
這入りを繰り返す度に、濡れた音が立つ。
それが、より狂わせるのかもしれない。
我を忘れて夢中になってしまう。
脳内から、まばゆい光が、炸裂する。
「あっ……駄目っ」
微妙な場所に擦れて、一気に近づく高み。
「いいの間違いじゃないのか」
くっ、と笑って、彼は動きを早めた。
呻いたのではなくて、確かに笑った。
何故そんなに余裕なのと、問う余裕すらなくて、ひたすら波に翻弄される。
「せい……っ」
「これも言ってなかったな。俺はお前に名前を呼ばれるのが一番好きなんだ。
苗字よりも下の名前に意味があると思えたのは……沙矢のおかげだよ」
「ん……ふ……っあ。何でそんなに……冷静なの? 」
「冷静じゃないさ。楽しむ余裕とでもいうのかな」
舌がいきなり頂を舐め転がした。
「今、全部もっていこうとしただろ? 容赦なく締め上げやがって」
「はあ……っ……だって」
「精神的に余裕があっても肉体的にも余裕があるかどうかは別だな」
吐息にかすれた声が、肌に響く。
強烈な勢いで、迫ってくる。
びくんと、存在感を増した彼が、壁を擦る。
奥を突き上げられて、体がはねた。
自分で意識してなくても、嬌声はもれる。
膜を隔てて、迸りを受ける。止まらないそれに、彼の思いを感じた。
目を覚ましたら汗で額に貼りついた髪を掻き分けて彼が口づけていた。
ぱちぱちと瞬きする。眩しいくらいの笑顔がそこにはあった。
「おはよ……」
「おはよう。あれだけぐっすり寝てたのに意外に帰ってくるの早かったな」
やたらさわやかに笑いながら、頬に口づけてくるから、顔が赤くなる。
キスよりも、赤くなったのはからかいのせいだ。
少しだけ睨んだら、
「まだ元気そうだな。もっと疲れさせてやろうか? 」
頬から首筋を冷たい手が這う。
微妙な感覚でタッチされるから、身をよじってしまう。
「い、いいです! 」
「感じてるくせに」
「ヤらしい触り方するんだもの」
「ヤらしいのは、お前だろ」
奇妙な敗北感に襲われる。青はあくまでマッサージしているつもりだ。
肩から背中を、揉み解してくれている。
ちゃんとシーツの上から触れているから、紳士的だと思う。
「ありがと……」
「いや、俺を愛撫してくれたお返し。お礼してなかっただろ」
「え、ええ」
言葉に詰まった私はどうかしている。
これだから彼に突っ込まれるのに。
咳払いしていると、大胆な手のひらは
マッサージの度を越えた触れ方をしてきて、
あっという間にそういう雰囲気へと持っていかれた。
まさかあんなことまでするなんて。
翌日は、結局睡眠不足になってしまい、あくびばかりしてしまうことになる。
彼を怒らせたら後が恐ろしいと思い知ったけれど、
きっと何度も繰り返してしまうのかもしれない。
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