ふいに、重なった腕に体の奥が痺れた。
しなやかで、ほっそりとした腕の感触。
伝わる温もりに心まで温まるどころか、体が熱を発してくる。
体格の違いで、肩の辺りの位置にくる
彼女の頭。
柔らかい髪を、指に絡めて息をつく。
衣服越しに感じる豊かなふくらみに眩暈がしてきた。
ベッドの上で、抱きしめあってそのまま眠った。
疲れていても、触れると関係なくなるのだが、珍しく抱擁したまま眠ってしまったのだ。
手を繋いだつもりが、寝ている途中でごろごろと転がったので腕を引いた。
何故わざわざ俺の方ではなく、反対側に転がっていくのか。
一人で寝てもだだっ広いベッドでよかった。落ちて頭でも打ったら大変だった。
それにしても寝相が悪いのだろうか。新たな彼女にもはや笑いしかこぼれない。
引き寄せたら、更に押し付けるように体を寄せてくるから、拷問だ。
寝ている相手を襲う趣味はない。
相手の意識が僅かでも覚醒していれば別だけれど。
「せーい…………むにゃむにゃ」
名前以外は、ちゃんと言葉になっていなかった。
うわ言には返事をしてはならない。
とりあえず己の理性を試す覚悟で寝ている彼女を観察することにした。
体を離そうとしてもしがみつかれていて離れない。
いや、離したくはないのだが、このままだと襲いかかってしまいそうで、恐ろしいのだ。
「苺はね、最後にとっておくの! 取っちゃだめよ」
ショートケーキを食べる夢でも見ているのか。
一緒にいる誰かに釘を刺している。確実に俺だろうが。
「……反則よっ……! 」
若干怒り出した。ぷりぷりと頬を膨らませている様子がかわいい。
反則はどっちだ。
「っ……こんなことするなんて」
怒っていたはずが、恥らっている。むしろ感じているように見える。
夢の中にいるのに頬まで火照らせて、器用だ。
薄く開いた唇に、釘づけになる。
届くか届かない声で囁いてみた。
「沙矢……」
「う……ん」
ぼんやり、瞳が開いていく。
瞼を擦る指を掴み、間近で見つめたら、
「きゃああっ……顔が…… 」
凄まじい勢いで飛び起きた。
顔をしきりに横に振っているのはなぜだろう。
「人を化け物みたいに言うなよ」
離れようとする体をベッドに縫いとめる。
「青の声が二重に聞こえて、夢か現実か分からなくなったのよ」
舌っ足らずの声が耳をくすぐる。
「予想通り夢の中でも俺と一緒にいたんだな」
沙矢は、顔を赤らめた。一気に目が覚めたようだ。
「……寝言でも言ってた? 」
「ああ……色々と」
「いい、言わなくてもいいから! 」
「最後のが気になって、しょうがないんだが。
当てて見せようか? 」
腕から逃れようとするが、離すつもりはさらさらない。
散々人を煽って
くれたことに対するお礼を支払わなければ割に合わない。
強い力で抱きしめると、頬を赤らめた。
腕の中で暴れるから、
耳元で一言二言囁いたら、がっくりと体の力を抜いた。
(感じたんじゃないだろうな)
「苺は食べられたのか? 」
にやり、自分の口元には笑みが刻まれているに違いない。
目の前に差し出された折角のおやつをいただかなくてどうする。
向こうは夢の中でしっかりと食べたみたいなのに、
俺の方は、何ももらえないなんて、ありえないだろう。
「もしかして、欲求不満か? ちょっとお預けくらわすとこれだから」
わざとらしい溜息を一つつく。
「んんん……っ」
唇をこじ開けて、舌をからめとる。滴が顎を伝い喉まで落ちた。
「んっ……ふっ」
小刻みに舌で触れて、耳を噛む。吐息をかけて囁く。
「口移しで食べさせてやったよな」
「な……んで分かるの」
「お前の反応で夢の内容なんて手に取るようにわかる」
「う……見ないふりしてよっ。いじわる」
「褒められてもうれしいだけ」
「……やっ……ん」
舌先で首筋をなぞると、体をよじった。
夢を見ているのにあんな生々しく反応するなんて、
隣りに俺がいることを全く想定していない。
喉から笑いがこみ上げる。
服の上から、唇を使いブラジャーを外す。
触れたら、驚くほど固くなっていた。
「はあっ……っ」
服をずらして、口にくわえたら甘美な味わいがした。
唇の間に挟んで、軽く吸う。
見た目は、苺に似ているが、苺よりも甘い。
歯を立てたら、目を潤ませる。俺の髪に指を差し込む。
ぐっ、と引き寄せられ、胸元に頭を寄せる姿勢になっていた。
「そういうつもりなら、手加減はしないから」
指の腹で転がし、口に含む。もう片方を音を立てて吸う。
指をそっと忍ばせたら、下着が湿りを帯びていた。
「お前が素直になってくれて、幸せだよ」
以前とは、感じ方が違う。
こちらが、求める以上の物を返してくる。
「っああ……」
下着のわきから、指で触れただけなのに、沙矢は軽く達した。
弛緩した体が、艶めかしく波打っていて、見ているだけでヤられる。
相手が沙矢だからこそ。
求める欲望は簡単に宥められない。自らに言い訳する。
枕の下に隠していた避妊具の封を切った。素早く自身にまとわせる。
(こんなにも、お前を求めて震えている)
沙矢の頭の横に手をついて、覆いかぶさるように密着した。
途端に彼女の腰が、揺れた。
どうやら、触れてしまったらしい。
「同じだろ、お前と」
下着をずらして、直接触れる。指が滑るほどに濡れていた。
湧き出る泉を唇ですする。
「いっつも思う……けど、汚くないの」
「好きな女の蜜ほど甘くて美味しいものはないんだぜ」
「な、……っ」
秘所に息を吹きかける。
指で中をまさぐる。溢れんばかりの滴が、指の侵入を助ける。
突き立てて、擦ってみる。
一気に上り詰めた体が脱力した。
荒い息遣い。
シーツを掴む小さな手を強く握った。
より、体を密着させる。ベッドの脇に手をついて呼びかける。
「沙矢」
「青……」
首に腕が絡まったのを合図に一気に突き立てた。
「ふ……あっ」
揺れる胸を掴んで、揉みしだきながら、出たり入ったりを繰り返す。
滴が混ざり、こぼれて、シーツに散る様さえ、己を掻き立てた。
こんなにも、堪えが利かないだなんて、
盛りの付いたガキだなと
呆れながらも、止める気もなかった。
苺よりも俺を刺激してくれるソレを噛むと、あられもない声と共に
ぎゅっと締めつけられ、呻く。
中に入ったばかりで、これでは果てるのも時間の問題だ。
「っ……やあっ……青」
「何がいや? 」
背中に立てられた指が、滑る。
俺は沙矢の体を起こして、しっかりと抱きしめた。
「……っ感じすぎて嫌になるの……」
「本当に嫌? 」
沙矢は肩にもたれかかって、首を振った。
「俺は悦びにわななくお前に、どうしようもなく狂わされてる」
俺を抱擁することで、沙矢は答えを返してくれた。
爪が、当たる痛みに眉を寄せる。
「熱っ……」
「温かいじゃなくて熱いのか」
「……だって燃えているみたい……」
「燃えているだろう」
問いではなく確認だった。
「……ん……っ」
顎を持ち上げて、唇を触れ合わせた。
おずおずと差し出される舌を半ば強引に絡め取る。
「好きだ」
「わ、私も」
ぐい、と貫いた瞬間、華奢な体が傾ぐ。迸りが、止まらない。
崩れ落ちる前に、抱き止めて、横たわらせた。
体に熱がわだかまっている。腕を伸ばしたら、硬い皮膚にぶつかった。
はたして夢と現実とどちらが甘かったのだろうか。
未だ、彼のぬくもりが奥に残っているようでたまらない。
「目を覚ましたか」
かあっ、と恥ずかしくなって腕で顔を覆った。
何なの。そのすがすがしい様子は。
「そうやって煽ると、また欲しくなるだろ」
クス、と笑って、胸の中に抱え込まれる。
熱くて硬い胸板に寄り添う。
「おやつ、ごちそう様。ちょうど甘いものが欲しかったところだったんだ」
「へ、おやつって……何かあげたっけ? 」
頬にちゅ、っとキスが落ちる。
「少し間を置いたから次はメインディッシュが欲しいかな」
何もわかっていない沙矢が呆然としている内に覆いかぶさる。
「ふ……っ!? 」
「さっきより甘いな。何故だ」
「っ……も、もしかしなくても私がおやつで、メインディッシュ!? 」
キスのせいで声が掠れてしまう。
「さっさと気づけよ。鈍いな」
若干むっ、とした。
真っ赤になって彼を見上げる。
「やっぱり怒った顔もかわいいな。見ていると齧りつきたくなる」
「は?」
握りしめられた手が、持ち上げられて口づけられ、
指ごとぱくりと口の中に消えた。
「まずは前菜」
「ちょ、ちょっ……」
歯が当てられ微妙な力加減で噛まれていた。
変な声が出ないように堪えていたら、目元が潤んでくる。
腕を撫でられ、同じように舌でなぞられて、びくりとした。
首と肩を甘噛みされると、じんわりと痺れが走った。
「そ……そんなに主張しなくても……私は青の物よ」
首元に顔をうずめていた彼が、顔を上向けた。
「ったく……愛らしいことを」
頬に手を伸ばし、彼の髪に触れるとさらさらとしていた。
息をつく音、そして微笑み。
「お前は俺を虜にして離さないな」
見下ろす彼を見上げる。お互いの頬を手のひらで包み込む。
「食後のデザートもあるんだよな」
ぽかーんとした。
おやつ、メインディッシュ、食後のデザート……?
「っ……あっん……」
心の中でカウントしている隙に、魔の手が伸びてきていた。
ふくらみを下から押し上げ、捏ねる手のひら。
唇が、胸の谷間に痕を刻む。
「上塗り……しなくてもいいのよ」
「消えて、お前がさみしくならないように」
何だかんだ理由をつけて、花びらを散らしてゆく。
「っ……青……待って……」
避妊具をつけた焦熱が腹部に当たるから、ぶるりと震えた。
敏感な部分が勝手に蠢きだす。
「お前こそ待てないくせに」
蕾を指で押しつぶされる。水音が響いた。
「っ……はあ……ん」
「とろとろ? いい具合に食べごろだな」
卑猥な声と顔で、呟かれて、きゅんと疼く。
膝裏を持ち上げられて、肩に両足が乗せられた。
繋がる瞬間、響く音。
波が、引いては打ちつけてくる。
荒波にもまれる中、再び果ててしまった。
その後もデザートと称して、彼に食べ尽くされた為、
中々、眠ることはできなかった。
性質が悪いことに、向こうは何の消耗もしていなかったけれど。
「たまには、一食ずつに分けてやろうか」
「たまとか言わないでっ」
「大丈夫。お前は最高に美味だから、食あたりも起こさない」
「どんな理屈……っん」
何度かついばんで離れた唇は、濡れていてぞくっとした。
私の方も同じなんだろう。
髪をなでる手のひらに安堵を覚えながら、瞳を閉じた。
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