sinfulrelations


open the newgate-3-



よくあれだけで収められたなと自分に感心していた。
真の意味では奪われてはいなくてもあそこまでされて
我慢できた自分に驚いた。
本当に間一髪だから。
……人間丸くなり過ぎたのか。
肉体的苦痛は歯を何本か折る程度で奴は助かったが、
精神的苦痛はじわりじわりと味合わせてやるけどな。
まさか、沙矢の裸を見ておいて、触っておいて
ヘンタイ馬鹿こと春日もあれだけで済むとは思ってないだろう。
思ってたらおめでたい奴だが。
復讐は時間をかけて楽しむ物だからな。
とりあえず早く彼女を綺麗にしてやらなければ。
意識のおぼつかない彼女の体を洗って、服を着せた。
……着せなくてもいいが、今は無茶は良くない気がしたのだ。
「お休み」
微笑みかけてシーツをかける。
薬が切れ始めたのか、彼女の表情が元に戻ってきていた。
目を細め、じっと見つめる。
「……わたし」
「大丈夫だよ。もう心配しなくていい」
髪を撫でる。
「いや……あの人、私……」
混乱しているようだった。
「大丈夫だから」
安心させてやるにはどうすればいいのか。
「ごめんなさい……私どうにもできなくて。
自分の弱さに腹が立って。携帯奪われたらすっかり
マイナス思考になっちゃって」
途切れ途切れに彼女は言葉を紡ぎ、いつしか涙を瞳に浮かべていた。
「お前は悪くない、もう考えるな。忘れてしまえ」
「……私がもっとちゃんとしてれば」
「自分を責めても過ぎた時間は戻らないんだ。
それよりも先のことを考える方が、建設的じゃないか」
「先のこと?」
「俺達のこの先のこと、色々考えたいんだよ」
「青、私は今のままで充分幸せよ」
彼女の瞳から涙がぽろぽろと零れ続けていた。
「泣くなよ」
指先で拭い、頬にキスを落す。
「……だって私あんなことされたのに青が優しいから」
「ああ、お前が悪い。そういえば満足か? 今更だが、
気味悪い男に執着されてることを何で隠してた?
どうせ大したことでもないしとか思って遠慮したんだろ」
きつい言い方をしている自覚はある。
責めても仕方がないのだ。
「青、いつも忙しそうだし下らないことで煩わせちゃ駄目だって思ったから」
嗚咽で上手く言葉になっていない。
「どこが下らないことだよ。媚薬かがされて良い様に操られて、
もう少しでどうなってたと思うんだ。本当に下らないことだったら
俺も良かったよ。だけど……」
思い出すほどに怒りが込み上げる。
もっと早く駆け付けれていればという自分への怒り。
沙矢に近づき手を出した春日への憎悪。
「ごめんな、気付いてやれなくて」
「青……」
彼女が背に腕を絡めた。
俺は抱き返すことで応じる。
「忘れさせて……お願い」
「沙矢、今日はもう寝ろ」
「……嫌、眠れないもの。あの人の感触が体中に残ってて」
彼女の肩が震えている。
未だ込み上げる嗚咽を抑えられないままに。
「抱いて欲しいの」
「沙矢、俺も本当は早く癒してやりたくて仕方なかったんだ」
「せい……せい……好き」
もう一度、彼女の体を横たえ、キスを交わす。
淡い触れるだけのキス、舌を絡めた濃厚なキスを何度も何度も繰り返す。
そうして唇だけで触れると、心を落ち着かせてやれる気がした。

青が加えてくる愛撫が嬉しい。
あの人に汚された場所を清めるみたいに、体の全部にキスしてくれて。
幸せで胸がつまりそうで、また涙が溢れる。
「まだ辛いか?」
切ない眼差しで問いかける彼は今までで一番優しく感じられた。
「違うの。嬉しくて」
私、あなた以外ではきっと感じたりしないんだわ。
薬とか使われて嘘の感情で感じさせられちゃったんだけど。
あんな事があった後だから余計に彼に抱かれるのが嬉しい。
いつも以上に敏感な反応を返す私がいる。
「沙矢、好きだよ。何度でも抱きたい。
どうせなら溶けてしまえれば離れてお前が苦しい目に合うこともないのにな」
青が背中を抱きしめながら言った。
「溶け合えればいいな」
青の本心を知る前、苦しかったあの頃、ずっと思ってた事なのよ。
そうしたらあなたのことを独り占めできるって。
青は私の言葉に答えるように、胸を撫で、また唇を合わせる。
「ふ……あぁ……っ」
喘ぎがもれてしまう。
気持ちよくって、私にこうしていいのは青だけだって思う。
私がこうされたいのは彼だけだって思う。
そう考えると涙が止まらくなる。
青が体中にキスをしてくれて
指先で触れながら、泣き続ける私の顔を覗き込んだ。
「嫌な思いは二度とさせないから、安心していい」
「うん」
柔らかく青が微笑み、翻弄される波の中で私は、頷いた。
綺麗な瞳。前から思ってたけど、彼は本当に素敵だ。
ちょっと複雑な性格も理解してから、余計彼が愛しくなった。
背中にそっと指を這わせる。
広くて温かい背中をこれからも見ていたい。
「ここが汚されなくて良かった」
「……やぁ……青……」
そう言いながら彼が私の秘所にある蕾に唇で触れる。
真面目な顔で言うから、心臓が高鳴って、体が反った。
体中が熱く沸騰して、何もかも支配されてる。
やがてその場所に触れるものが唇から指に変わって。
小さな仕草で撫でた後、指の動きを早めて全体をかき回す。
「あぁ……はぁ……ん……は」
苦しくて息が出来ない。
私は既に荒い息になっていた。
「……焦らさないで……早く……欲しい」
大胆すぎる台詞さえ口から零れていた。まだ媚薬の効果が切れてないのかしら。
それだったら複雑かも。でも青だからこんな風になっちゃうんだって思うの。
「分かったよ」
クスッとあの妖しい笑みを浮かべて彼が、キスをした。
波に攫う合図。
知らない場所まで連れて行ってね。
秘所にある入り口に、彼自身が触れると、自然に体が反応する。
「あ……ん……」
すごい熱を感じて、跳ねる私。
たったこれだけでふわりと意識が、どこかに飛んだ。
「まだこれからだぞ?」
俺もお前と一緒にイきたいんだからな、一人でイくな。
「……青、一緒に」
彼の背中にしっかりと腕を絡めると、彼自身が私の中に入ってきた。
熱量に堪えられない。苦しい程に満たされてゆく。
「あぁん……はぁ……ん……」
彼がゆっくり動き出す。
両手で膨らみを揉みしだき、キスを交わす。
微かな啄ばみから、歯列を割り、舌を差し入れた激しい物に変わり、
クラクラと眩暈がし始めた。
緩やかに前後する動きも止まらない。
「沙矢、好きだよ、お前を抱くのは俺だけだ。
俺しかいない」
熱に浮かされた様子で青は呟く。
それでも嘘じゃないから私は必死で彼にしがみつく。
「いつまでも抱いて、私だけを。約束してくれる?」
「約束する」
彼が優しく微笑む。私は頬を染めていた。
次第に卑猥な言葉も呟いてしまう。
いつもなら決して口に出しては言えないのに、今日は変ね。
「……や……ん……もっと……もっと」
「沙矢」
耳元で囁かれ、耳朶をきつく噛まれた。
「あん……」
彼の動きが一層激しくなる。
めちゃくちゃに私の中をかき回される度、寝台に体を打ち付けそうになる。
そんな私を彼は力強く抱きとめてくれる。
理性なんて置いてきて、ただ残っているのは本能のみ。
彼の指先は肌の上を這い回り、膨らみに指を添わせていた。
丁寧に揉み込まれる。
頂を舌で吸われると、体中に電流が走る。
色んな場所に付けられた赤い印。
あの人に付けられた物なんてとっくに消えてるんだけど、
彼は痕を刻み続ける。
私の中を出入りし、強く背中を抱きしめて。
「……ああっ」
熱い奔流が彼のそれとぶつかる。
もう限界だ。
「青……もう……」
気付けば瞳が潤んでいた。
私を見下ろす彼を見上げる。
何度名前を呼び合っただろう。
きっとこんなにお互いの名を呼んだ夜は初めて。
一度、彼は私の中から抜け出た後、鋭く貫いた。
少し腰を引き、今度は最奥まで。
「あぁぁぁぁ……ん……はあっ」
一段と高い嬌声を上げて、私は果てた。
彼もその後果てたのが分かって、一緒に辿り着けたことに心底幸せを感じていた。
するり、温もりが体から抜け出てゆく。
眠りにつく前、彼は何度も何度も頭を撫で、髪を梳いてくれた。
頬に一度だけキスが落ちて。
この瞬間があるからあなたの物でいたいと思うの。
この瞬間、一番安らぎを感じているの。

目覚めた時、見たものは、宙を見つめ煙草を吹かす彼。
何か考えているのかな。
「青、どうかしたの」
「まだ寝てていいよ」
彼がふわっと笑って、頭を引き寄せられる。
私はその肩に寄り添う。
肌と肌が触れ合っていると思うと頬が火照った。
「ううん、たまには話を聞かせて。ベッドの中であんまり話したことなかったじゃない」
「ああ……そうだったな」
「さっきの話の続きをしようか」
さっきの話って私達の今後の事?
「ええ」
ドキドキと心臓が高鳴った。
期待で胸が膨らむ。
「俺は二度と悲しみで涙を流す沙矢を見たくない。
それが俺のせいであれば尚更。他人に傷つけられて泣くのを
見るのも御免だ。堪えられない」
彼は真摯そのものの眼差しで私を見つめていた。
「側にいてお前を守りたいんだ」
「……? 今だって側にいてくれてるじゃない」
「もっと確かなことさ。独りになんてしたらお前はどんな
目に合うか不安だからな。だがそういつも駆けつけることは出来ないし」
彼は不器用であるけれど、その分、物事を丁寧に
じっくりと話してくれる。マメに説明をしてれるタイプというか。
「いつも俺の側にいてほしい、沙矢」
「青」
「これからもずっと傍らに」
「結婚してくれないか」
一言一言区切って柔らかく話す彼。
じわりと知らず涙が零れていた。
「う、嘘……夢じゃないよね……こんな」
ほろほろと涙が流れ落ちて止まらない。
「夢じゃないよ」
ふわと抱きしめてくれる腕の確かさ。
髪に手が触れている。細くて長い青の指。
「青……私、嬉しい。嬉しいの」
「答えはYESをくれるのか?」
「NOと答えるわけないじゃない!」
ひしと抱きついた。
背中を支えてくれる青。
頬に額に掌に何度もキスをしてくれた。
「私と結婚して下さい」
改めて言い直す。
「喜んで」
微笑み合って、ただ互いを抱きしめた。
そして眠りにつく。同じ朝を永久に迎える相手と共に。

私達は新しい門を開いた。
願っていた。望んでいた想いがようやく叶った。
ありがとう、青。
これからも私のたった一人のひとでいてね。


モドル ススム モクジ


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