Love greetings 2


 車窓からはようやく立て看板が見えてきた。
 駐車場からかなり距離があるようだ。
「降りるぞ」
「はーい」
 手を引かれて降りると人の波ができていた。
 離れたら迷子だわ。呼び出しだけは勘弁。
 列に並ぶ時、青の手をしっかり掴んだ。
 キスマークは毛皮の下にしっかりと隠れていてふうと息をつく。
 狙ってやったとしか思えない。
 ぞろぞろと人波に流されるように移動する。
「沙矢ちゃんじゃないか」
 前に並んでいた人が振り返った瞬間、はっとした顔で声を掛けられた。
「小松さん!」
 合コンで知り合った小松さんとはそれからというもの、付き合いがある。
 私というより今では青と仲が良い。
 小松さんは藤城総合病院と関わりが深い銀行に務めているそうだ。
「着物よく似合ってるよ。綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
 照れ笑い。
「去年はハネムーンのお土産ありがとう」
「あ、いえ」
「お一人なんですね」
 青が声をかけると小松さんは苦笑した。
「妻はまだ寝ているし、子供は朝まで眠れなかったらしくて残念だけど一人だ。
 妻と子供の分もお守り買っていこうかなって思ってる」
「そうですか」
 にこにこ笑ってる私の横で青が目を逸らした。
 え、詳しく知ってるの?
「青さん、何か言いたそうだね」
 小松さんは笑みを崩さないまま。
「新年おめでとうございますとだけ言っておきましょう」
「ああ、おめでとう。もうちょっとの辛抱だね」
「モラル考えましょう。こんな所で話すことじゃない」
 この二人は一体。
「二人とも、笑顔なのに怖い」
「沙矢、別に憎しみ合ってはないから安心しろ」
「これが僕と彼の普通だよ」
 奇妙な友情に触れた気がしました。
 話をしながらも歩みを進めている。
 神社の境内が見えてくると人の列が分かれた。
 お守り買う人、参拝している人。
「いい子が生まれるの祈ってるよ」
 小松さんはそう言って笑うと頭を撫でてくれた。
 子供扱いされてるみたいで頬を染めてしまうが、
実際14も離れていれば彼からしたら子供だろうなあとも思うから気にならない。
 じゃあと手を振って小松さんと列を別れた。
 安産祈願のお守りを青が買い、私は青へ交通安全のお守りを買った。
 青の肩が微かに揺れたのを見逃す私ではない。
 様子を見ているとくるりと青がこちらに向き直った。
「ベタだろ」
「あ、もしかして家内安全にしてほしかったの?」
 青の反応が癪だったので私も反撃に出た。
「それこそ必要ない」
 憮然と言い放つ彼がらしくて、おかしい。
「自分達の行い次第って事ね」
「お守りも願掛けも神頼みだが要するにそうなれるように頑張るってことだ」
 青の声もざわめきに掻き消される。
 列が途切れて人がまばらに散らばっているのを見つけて並ぶ。
 カランカランという軽い音と共に青が小銭を投げるのに続き
 私も自分のお財布から小銭を取り出して投げた。
 小銭入れを悩ませる一円、五円が一気になるとすっきりした。
 一円、五円はたまりやすいのよね。
 私は五円を糸に垂らした古典的なあの催眠術に
 まんまとかかるタイプだが青はまだそれを知らない。
 言わない限り、ばれないだろうから黙っておくのが懸命だ。
 二礼二拍手一礼をして参拝する。
(無事に赤ちゃんが生まれて、皆幸せな日々を送れますように)
 二つもお願い事をするなんて贅沢なことだろうか。
 いや、青も結構ゴーイングマイウエイなお願いしてるだろうし。
 人ごみ嫌いな青が、初詣に連れてきてくれたこと自体な奇跡という気がするし。
 そもそも神様信じてるのかしら。
 考え事が表情に出てないことを祈る。隣りの旦那様は恐ろしいほど鋭いのだ。
 「えっ!? 」
ぐいと腕を引かれて一瞬よろける。
  気がつけば青が前にいて、私を見ていた。
「自分の世界に入ってたな」
「え、そうだっけ」
「ぼうっとするな。家ならいいけど後ろつかえてるんだから」
 気をつけないと今度こそ転けるぞ。
 青は受験生に気を使ったのか、最後のところは耳元で囁いた。
 やっぱり何だかんだ常識人なのね。と妙な感心をしたところで、手を差し出された。
 少し骨ばった大きな手をしっかりと掴んで歩き出す。
 手を繋ぐと充分温かいから手袋なんていらない。
 出店が出ている広場に向かう。
 りんご飴、ベビーカステラ、焼きそばなどどこも賑わっていた。
「りんご飴食べよう」
 ちょっぴり強引に青の手を引いて歩く。
「二つ下さい」
 青は何か言いたそうな顔をしたが瞬時に表情を戻した。
「はい、どうぞ」
 光沢のあるりんごの飴は顔を近づけると砂糖の甘いにおいがした。 
 私は二つのりんご飴の一個を青に手渡す。
「…………」
「甘いもの駄目なの?」
「いや」
「あそこ、座ろう」
 空いているベンチを指差し先に歩いていく。
 小走りまでは行かないまでも早足で。
 先に座って隣の場所を勧めると青は得体の知れない笑みを浮かべていた。
 にっこり。甘い微笑っていうのかしらこれ。
「さーや」
 隣には座らず立ったまま正面から。
「せーい」
 ぼそっと反撃。
「俺より先に行くな」
「青って亭主関白だったの!ええっ今頃になって発覚するなんて」
 大げさに驚いてみせるとこれみよがしな溜息が聞こえてきた。
「目を離せないんだよ」
 強く指先同士を絡めるとそこに熱が集まっていく。
 たまには逆でもいい。
 そう思って彼を隣りのスペースに誘導した。
 空いているといっても一人座れるくらい。
 普段座り慣れてるソファーとは違い、広くないので二人で座ると隙間なんてない。
 周りにはどんな風に映ってるのかな。
それにしても余ってるベンチなんてよくあったなあ。
 空の青は薄くてどちらかというと白に近い。
 いつしか冬の空を寂しいと感じなくなった。
 寂しいと感じなくても一人で空を見ると無性に切なくなるのだろうけれど。
「りんご飴、食べないの?」
 青は未だ手付かずのままりんご飴を持っている。
 さっき正面で立ち止まっていた時も持っていたわけで。
 いけない!思い出し笑いしちゃうわ。
 慌てて自分のりんご飴を食べ始める。ごまかし笑い。 
「何やっても憎めないんだからずるいな沙矢は」
 頬が赤く染まる。
 照れが襲ってきて無心にりんご飴を頬張った。
 青もりんご飴を食べている。
 実は彼がりんご飴なんて可愛いものを食べる姿が見たかったのだ。
 さっき嫌そうなの気づかなったことにしたの。
 お年玉ってことで許してね。
「甘いけど結構いけるな」
「でしょ」
 語尾にハートマークついてる気が。
「実は初めて食べたんだ」
「そうなんだ、珍しいね」
「さすがにりんご飴は」
 女子供の食べ物とか思ってたのかしら。
「青が食べてる姿、可愛いから安心して!」
 やらしく見えるのもあるけど。
 光沢のあるりんごを赤い舌が……はっ。
 青の舌の動きが悪いのよ!
「俺が食べてるの見たかったのか」
「うん」
 青の問いにあっさりと即答。
 頭をぽんぽんと撫でられる。
 これから母親になるのに子供扱いされたわ!
 ……私の言動も言動よね。
「他に何が食べたいんだ?好きなもの買ってきてやろうか」
 にこにこっと笑いかける青。
 軽い調子で言うから、むぅっと頬を膨らませる。
 本気じゃない。単なる戯れ。
「焼きそば食べたいな」
「着物汚すなよ」
「汚さないわよ」
 妙なやり取りをした後青は、ベンチから立ち上がった。
 向こうに歩きかけた所で振り返る。
「言わなくても分かってるだろうがそこを動くなよ」
 頷いてもまだ言い足りないのか続けざま言い放つ。
「誰かに声かけられても無視しろ。俺の前以外での笑顔は禁物だぞ」
「話しかけられないわよ。すぐ戻ってくるでしょ」
「分かってないな、お前」
「……あはは」
 青はじっとこちらを凝視した後立ち去った。
 というか、話しかけられない気がするんですが。
 寧ろ青が声かけられるんじゃ。いやそれはないか。
 私がもし青と全然関係ない第三者だったら、絶対声かけられないもの。
 旦那様を見送った私は無邪気にりんご飴を頬張っていた。 

 出店の並んだ通りで焼きそば屋を探す。
 結構同じメニューを売っている店は多い。
 それでも微妙に味が違う。
 何軒か見て回り、頑固そうな男性店主の所の焼きそばを買うことにした。
 トッピングは紅しょうがとかつお節。
 広場の方へと戻ると沙矢は案の定、声をかけられていた。
 沙矢に懐いている犬のような……10歳下の甥。
「「あけましておめでとうございます」」
「おめでとう」
「砌くん達も来てたんだ偶然ね」
「はい。せい兄が沙矢さんから目を離すなんて、明日空から槍が降ってきそう」
「焼きそば買いに行ってくれてるの」
「青さん会いたいなあ」
 砌の彼女が、瞳を輝かせている。
 別に会おうと思えば会えるだろうに。
「もしかして明梨ちゃん、彼のファンなの!」
 沙矢が明らかに興奮している。  妊婦なんだからあまり腹に刺激を与えるな。
「えっと、クリスマスの時お話できなかったし、話してみたいんです」
「もうすぐ帰ってくるから時間大丈夫なら、待ってたら」
「俺は別に、会いたいってこともないんですけどね……」
「時間は全然平気ですよー勿論」
 彼女は砌の手をしっかり握っている。
 これは、尻に敷かれてるな。
「それにしてもせい兄、遅くないですか」
「そうねー」
「あっ、噂をすれば!」
 ばたばたと駆け寄ってくる少女。身長は沙矢よりも5cm低い位か。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう、今年も砌が世話になるな」
「慣れました」
見上げてくる少女の頭を撫でたくなってしまうのは何故だろう。
 砌と同じ匂いがするからか。かといって砌の頭を撫でてやろうとは思わないが。
 そっと手で頭に触れると嬉しそうにはにかんだ。
「えへへー」
「…………」
 一瞬、反応に困った。
「お帰りー」
 沙矢はこちらを見て瞳を細めた。俺は隣に座る。
 世界で一番の特等席に。
「明梨ちゃん、青のファンなんだって」
「そうなんです」
「せい兄、フェロモン無駄に出しすぎ。人の彼女まで虜にしやがって」
「砌くん、青は無自覚なの。だから性質悪いんだけど」
「違う……違います。私はお二人のファンなんです!青さんあっての沙矢さんでしょう。
 きらきらオーラは、青さんと沙矢ちゃんが一緒だから出てるんですもん」
 きらきらオーラだなんて結構上手いこと言うじゃないか。
「きらきら……」
 沙矢が遠い目をしている。どうやらツボにはまったらしい。
 受け取った焼きそばを二つ抱えたまま膝を震わせ始めた。

「沙矢ちゃん今日は一段と綺麗ですね!せい兄、洋装だけじゃなくて
 和装も似合うんですね。はっいい男といい女は何着ても似合うのかー」
「超をつけ忘れちゃった!」
 明梨ちゃんはテンションが上がっている。
 青ってば慕われまくりね!
「明梨、妙に馴染んでないか。もうせい兄かよ」
「別に構わない。動物が増えただけじゃないか」
「オイ!」
 あまりの言いように一瞬言葉を失う。
 青なりの愛情表現はむずかしい。
 砌くんは即座に突っ込みを入れてるし。
「気にするな。悪い意味じゃないから」
 青が明梨ちゃんにフォローをしている。
 彼女は別段ダメージ受けてないようだったけど。
「気にしてないです!」
 砌くんの影響を多大に受けて定着した呼び名。
「近い内に藤城の屋敷に来るといい。その時お年玉やるからな」
「……って頂けません!」
 明梨ちゃんが慌てながら恐縮している。
「気にするな」
「……は、はい、ありがとうございます」
「俺のは……っていいたい所だけど」
砌くんは流石に強請るのが恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。
「お前、その前に何かを忘れてないか」
「?」
「砌!」
 明梨ちゃんが思い出してと瞳で訴えている。
「あけましておめでとうございます」
「ふ、やっと気づいたか。まあやらんこともないがな」
 あくまで不敵に青は笑う。砌くん苛めを楽しんでるのね!
「あ、私もあげるね」
「俺と別々に渡す必要はないだろう」
「そ、そうね」
「それにしても青、甥っ子くん達にお年玉なんて優しいね」
「別に普通だろ」
 もしや照れてますか。
「沙矢姉、せい兄って見かけによらず優しいんですよ。
 ちゃんとした叔父さんみたいですよね」
 砌くん、墓穴掘ったと思う。
「その言い草はなんだ」
 青は溜息をつく。
「誉めてるだろ」
「本気で言ってるのか」
「砌、ちゃんとした叔父さんなんて言い方しちゃ駄目でしょ!
 元々叔父さんなんだから」
「明梨ちゃんそこじゃないと思うわ」
「あと一回だぞ」
「……甘えさせて頂きます」
 青は本当に優しい顔をしてる。
 やはり甥っ子くんが可愛いんだろうな。
 見てるだけで絆を感じる。私より付き合いずっと長いんだものね。
「じゃあそろそろ行くから」
「また」
 砌くんが明梨ちゃんの手を繋ぐ。
 明梨ちゃんはぺこりと会釈をした。
「またね」
 微笑ましい二人を見ているとこっちまで元気になる。
 やがて二人の姿は見えなくなった。
「車に戻って食べないか」
 青が焼きそばと私を交互に見て言う。
 却下する理由がなかったので焼きそばの入った袋を持って立ち上がった。
 袋を青が持ってくれて、空いた手を繋ぐ。
 駐車場も人が結構いて話し声が賑やかだ。
 青は車内から鍵を開けてドアを開く。
 すいっと手を引かれ車に乗り込んだ。
「はい」
 箸を割って青に焼きそばと一緒に渡す。
「足疲れてないか」 「ううん、大丈夫。ずっとベンチに座ってたし」
「ならいい」
「着物のままでこれ以上食べたら苦しくなるかな」
「だろうな」
「食べ歩きしなくてよかったね」
 青はおかしそうに笑った。
 焼きそばを食べ終えると、早々に神社を後にした。
 道が混んでて中々車がスムーズに進まなくてマンションに
 戻るのに行きの倍の時間がかかった。

マンションへ戻ると、早々に着物から洋服に着替えた。
 お腹を締め付けないように青に緩めに帯を結んでもらっていても
 それでも何も入ってない時とは違う。一年前の成人式の時とは、大違いだ。
着替え終わるとリビングのソファに座り込んでしまった。
「足平気とか言ってなかったっけ」
 ニヤニヤ笑ってもいやらしさはない。
「帰ったらほっとしたの」
 青は苦笑しながら頭を撫でてくれる。
 少しだけ距離を空けて座り、ぽんぽんと膝を叩く。
 余裕たっぷりの誘導作戦だ。
 私は吸い寄せられて、青の膝の上に座った。
 息がかかるほど近くに二人の顔はある。
 体はやや横向きの体勢で視線を合わせる。
 傍から見たら立てた片足で青が私の体を押え込んでいるかに見える格好だ。
 この体勢、妙にドキドキする。
「ねえ、小松さんと何話してたの?二人の話の内容、全然見えなかったわ」
「男同士しか分からない話」
 青は唇を緩く吊り上げた。
 鏡で今の自分の表情を見てほしい。
 ものすごくあくどいんだから!だけどこういう人を試す時の表情が
 また魅力的というか、下手に造作が整いすぎている分、怒った顔なんて凍りつくくらい怖い。
 怒った顔が見たいから怒られてもいいなんて思う私は馬鹿でマゾなんだろうか。
 結局、あの二人の話の内容はどういうことだったの?
「分からない沙矢で嬉しいよ」
「……微妙な気分」
「下らない事いつまでも考えるな」
「じゃあ最後に質問」
「ん?」
「小松さんとはいつもあんな感じなの?」
「ああ」
 躊躇いもなく即答ですか。
「月1は無理かもしれないが、たまにここに来ような」
「別荘だ」
「そうだな」
 青が息を吐き出すと私にまで伝わってくる。
 ぬいぐるみを抱くみたいにしっかり抱え込まれた。
 いとしい温度に寄り添って、安心した私はいつしか眠りに落ちていた。
 ぎゅっと腕の力が強くなったのを夢心地の中感じていた。


 カウンターから、青にお椀を渡しながら笑う。
 今日は四六時中一緒にいたのに、話し足りない。
 言葉が溢れてくる。
「聞き役に徹しているかに見えて、鋭く突っ込むから油断できないわ」
 青は特にお喋りではない。寧ろ、言葉は少ない方だ。
 クールだが、つっこむ時は、容赦ない。毒舌だ。
「その認識からして間違ってるな。最初から聞き役に徹しているつもりなんてない」
「話題振らないじゃない」
「話なんてしなくても視線交わせば通じるだろう」
 からかってる調子じゃなく本気だから照れてしまう。
 こんな風にからかうことはしない人だ。
 いただきますと手を合わせて箸を割る。
 お餅を飲み込んで一旦箸を置くと青が口を開く。
「お前とゆっくりできる時間は貴重だから有意義に過ごさないと」
「お医者さんになって前の会社よりももっと忙しくなったものね」
「それは気にしてない。自分で選んだ道だ。誇りすらあれど後悔などないさ」
 青は強い眼差しを向けるから、眩しくて目を細めた。
「一緒に暮らしだしてから、四六時中側にいても足りないと思うようになったしな」
「そうねえ。私も背中にべったり貼りついてたいもの」
 首を傾げて笑うと青は口を押さえた。
 背中に貼り付くなんて背後霊じゃない。
 うわー変なこと言っちゃって。
「新年早々、笑い死にさせる気か」
「青は笑い死ぬほど笑わないでしょ」
 中々私もレベルアップしたかも!
 青が固まってるわ。
「話してるとご飯進まないね」
 私の言葉に青はお椀を傾けてみせる。ちゃっかり食べ終えてるし。
 しっかり汁まで飲み干しているではないか。
 会話の隙間を縫ったりして上手いこと時間を使っていたのだ。
感心とちょっと拗ねてしまいそうになるのと汁まで
 飲んでくれた嬉しさが混ざり合って複雑な気分。
「上手かったよ、ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
「それは他人行儀だし、お前の料理は粗末じゃない」
 青は自分の主張を曲げないよね。
 変な所でこだわるし。
「真顔で言うんだから」
「嘘偽りがないから」
 うっ。レベルアップしてもまだまだ追いついてない模様。
 青はお椀を手に椅子から立ち上がる。
 私は、最後の一口を食べ終えると青の後ろに続いた。
 私が洗って青が布巾で拭く。
 シンクの前に並んで立ってるとうきうきする。
 新婚ボケだろうがいいもん。
 目と目で会話だってする。
「早く4月来ないかなー」
「心の準備も必要だな」
「二人ともね」
 青は、親になることへの心構え。私は子供を産むことの覚悟。
 初めての出産で産むのが怖いって気持ちもある。
それを乗り越えて出産の日を迎えなければ。
「この間水泳でもしろって言ってたじゃない?
妊婦さんの水泳教室に通おうかなって。適度な運動だしお友達も出来るかもしれないもの」
「時期的にもそろそろいいな。足は、双葉さんにでも頼んでおこうか」
「ありがと」
「じゃあ正月明けから申し込むか」
「うん。自分で申し込むから甘やかさないでね」
「それぐらいさせろよ」
「駄目よ」
 シンクの水を止める。真顔で青の方を見つめた。
「頑固だな、意志が強いことはいい事だ」
 青が髪を撫でてくれると気持ちよくて頬が緩むんだ。
「そろそろお風呂にしよう」
 私の言葉に青はダイニングキッチンの壁にあるリモコンを押してお風呂のスイッチを入れた。
 それからお風呂に入り、同じベッドで手を繋いで眠った。
 青は完全に今度は聞き役に徹して私の話を聞いてくれた。
 青の休みも終わりお屋敷に戻る明後日から
 新しい年のスタートだと二人とも感じている。
 この部屋も好き。だけど今はずっとお義父様や操子さんがいるお屋敷がいい。
 家族がいるから。



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