そういえば、何で私気付かなかったのかしら。
彼以外に自分を安売りしないし、
簡単に心変わりなんてしないと心に誓って言えるんだけど。
彼も同じだったのだということに。
いつもあんなにスマートな身のこなしなのに、
彼はひどく不器用な所を隠し持っていた。
『お前の願い事はそんな安いことなのか』
簡単に口にしたあなたを呪ったわ。
私にとっては血の吐く想いで口にした願いだったもの。
でも。あれは本心だったのね。
あの時、感じ取れればもっと早く分かり合えて
許しあえたのに。
いつもの甘い常套句だとばかり思って本気に
しなかった私は愚かだったわ。
彼は甘い嘘の欠片の中に時々、本心を散りばめて隠している。
ただし、他人に簡単には悟らせない。
プライドが高いし、何より……優しいからね。
分かりづらい優しさだけれど
冷たくなるほどにあなたは、
こっちに想いを向けてくれている
というのを知った。
執着が強いほど意地悪になってしまうのね。素直じゃないから。
時には遠まわしじゃない甘い言葉でもない、
ださくてもありのままの本心を聞かせてくれなきゃ
分からないことだってあるのよ。
心と体が繋がるのは逆だったんだもの。
あなたの軽口を信じなくてただ酔いしれて。
本当、嫌になっちゃう。
この徒労に終った日々をどう返してくれるの?
いっぱいいっぱい愛して。
色んな所へ連れて行って。
かっこ悪いあなただって私は構わないのよ。
あなたならどんなだろうと受け止められるから。
だからごめんなさい。
あの時の言葉を無碍に扱ったことは、
私にとって最大の罪かもね。
あなたばかり責められないわ。
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