endless waltz



 衛也くんは、とても優しい。
 私には勿体ないくらいの人だ。
 三十路も半ばを過ぎた私が、10歳も若い子に、
 痛いくらいに愛されている。
 これが現実だというのだから、世の中は捨てたものじゃない。
 彼に似合う若くて可愛い子が
たくさんいるだろうに、私を選んでくれた。
 不安を覚える度に徒労にすぎないのだと、
 その激しさで彼は教えてくれる。
『あなたは馬鹿だ。
俺がどれだけあなたを大切に思っているか分かっていないんだから』
 切実に言われ、時折厳しい言葉も投げてくるが、
 こちらを思ってくれているからだと、知っているから、泣けてくる。
そして、勝手に涙する私は、
甘いお仕置きを受け、体中に彼を刻みつけられる。
 杉本衛也を嫌ってくらいに身体の奥まで、教えてくれる。
アルコール度数の低いカクテルなんて
 比べ物にならないくらい私を酔わせてくれる。
 酔いが回っても、醒めないのだ。
「んんっ……あ……っ」
 熱く滾る彼自身を何度となく打ちつけられ、
 波打ち際に打ち上げられた魚のように悶えた。
 薄く開いた濡れた唇に、またキスが降り注ぐ。
 舌が、唇の隙間から入りこみ、ゆっくりと歯頚をなぞる。
 こちらから差し出せば絡め取られ、水音が響き始める。
 キスのせいで、唇は乾くことを知らない。
 小さな明かりに照らされて妖しげに光っているのがわかる。
 くちづけを交わすために、衛也くんは、前かがみになっていた。
 この体勢ではあまり深くつながれない。
 もどかしくなって、腰をすり寄せる。
 敏感な場所が彼の先端に触れて甘い痺れを呼び起こした。
 じゅん、と中が潤う気配がして、少し恥ずかしい。
 気づいたのか衛也くんは、硬くなった蕾を指先で弾いた。
 途端に、背筋から駆け上ってきた快感が、私を追いつめる。
「いっぱい濡れてる。俺に感じてくれているんですね」
 卑猥な言葉なのに、彼は嬉しそうにつぶやくから反応に困る。
「も、もう……っ」
「ええ、いっぱいあげますよ」
 衛也くんが優しく腕を引いてくれ、抱き起こしてくれる。
 ちゅ、と頬と唇にキスを落とした後、素早く彼自身を引き抜き、
 一度、愛し合った後の避妊具を外した。
 ベッドサイドに置いている避妊具を取り、自らにまとわせていく。
 根元まで、きっちりとつけ終えた後再びこちらに向き直る。
 一瞬離れていた身体が、早くと彼を求めてざわめいた。
 くす、と笑い彼は、もう一度小さくキスをくれた。
 正面から向かい合って、彼の膝の上に乗せられる。 
「……あっ」
「夕純さんが、すごく近い。熱い……」
 奥まで貫かれたわけじゃなくても、繋がっているだけで
 彼をこれほどまで近くに感じるなんて。
 どこか、怖くて怯むけれど、嬉しさのほうが優っていた。
 そっと、広い背中に腕を回すと湿り気で、滑った。
 微かに爪を立てて掴まる。
「痛くない? 」
「いいえ。離したくないから捕まっていて下さい」
 とんでもない殺し文句だ。
 吐息混じりの声が少し高い位置から耳元にすっと落ちてくるから、
 心臓が、うるさいくらいに高鳴った。
 胸が疼き、彼を求めて中が蠢きだす。
 もっと、あなたを感じたい。欲しい。
「夕純さん」
 何気ない風に呼ばれただけなのに、ぞく、と腰にキた。
 中にいる彼が、びくんと跳ねた気がした。
また、存在感を増している。
 終わりが近づいている気配に、寂しくなり、胸がきゅんとした。
 私だって離れたくない。先程より強くしがみつく。
 低くうめいた彼が、激しく奥をついてきた。
「駄目です。それは反則だ」
「えっ……や……ぁん」
 ぐるりと腰を回されて、あられもない声を漏らす。
「無意識に締めつけないでくださいよ。保たないでしょう? 」
 そう言いながら、今度は柔らかく中を穿った。
 長々と続いた行為で、感じやすくなっていたから、
ソフトな動きでも簡単に快感が引き出されてしまう。
「セックスって一種の催眠療法なんですよね。
 疲れたあなたがゆっくり眠れるように、おまじないですよ」
「だから、余計に疲れさせてるの? 」
「仕事熱心なあなたも好きだけど、たまには何も考えずぐっすり眠って欲しいですから」
 耳を食みながら、言われ、くらくらとした。
 今夜の衛也くんは、わかりやすい優しさを示してくれるから、胸が疼く。
 年下の彼に甘やかされるのは情けないだろうか。
 甘えさせてあげられる度量が欲しいとも思う。
 衛也くんは、私をオバサン扱いしたりしないから、
 まるで同年代の若い女の子になった気分で、抱かれることができる。
 しっかりものの衛也くんは包容力があって、腕の中にいると安心感しかない。
「興ざめなこと言われないようにしなくちゃ」
「イってもいいんですよ? 」
 頭をふる。繋がっているのに、顔は笑いながら。
 ゆさぶられ、脳裏で思考がかき混ぜられていく。
 甘く食まれる頂きが、つんと硬くなり自己を主張する。
 口から離れた時、ぶるんと弾んだ。
 押し寄せてくる何かは容赦無い。
 衛也くん自身を絡め、離さまいとしている。
 もう、何も見えない。真っ白に染まり、淡い光が目の前に迫る。
 ぶるり、と震えた。
「やっ……イッちゃう! 」
「一緒に達きましょう」
 うっすら開いた視界に、お互いの繋がり合う姿が、まざまざと映った。
 生々しい。大きくなった彼自身が、私の中を目指して突き進んでいた。
 耳元に、愛してます、夕純さんと、ささやかれたのと同時に、
 奥を強く突き上げられ、避妊具越しに彼の熱が注ぎ込まれた
 たっぷりと、何度かに分けて注がれ、高らかな悲鳴を上げる。
 のけぞった背を力強い腕が支えたのを感じ、そのまま気を失った。
 

「本当に可愛いなあ」
 何故この人はこんなにも、愛らしいのだろう。
 10歳上であることを気にし過ぎるくらい気にしているが、
 俺からしてみれば、社会人としても先輩で大人の女性だ。
 何もかも敵うわけがないのだ。
 強がって見えて、デリケートで涙もろくて、
 実は姉御肌なところもある彼女だが、実際は
 年齢を感じさせない可愛らしさがある人だ。
「ずっと一緒にいましょうね」
 わがままな願いかもしれない。
 こんな自分では、支えにならないだろうが、
 いつだって、頼って甘えてほしい。
 遠慮せずに、苦いことを言ってしまうのは、それだけ
 あなたが好きで、心を預けているからなのだと
 どうかわかってほしいと願う。
 しっとりとした頬に指を滑らせ、髪を掬う。
 汗で湿った髪や肌から、あまい匂いが漂ってくるようだ。
 後ろから抱きしめて肩口に頬を埋めた。
 目覚めたら、意地っ張りの夕純さんの唇を塞ごう。
 そして、彼女が望むならまた愛し合いたい。
 終わらないワルツを踊るように。
 腕の中にすっぽりと収まる小柄な身体を抱きしめて、瞳を閉じた。
   



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