夢心地に抱きしめられて
いつも優しすぎるくらい優しい正範さんは、別の見方をすれば情けないともとれる。
いつだって自分より私を優先し、気遣ってくれる。
もっと強引に自分の好きなように振る舞ったって構わない。
上目遣いで見つめる。
まばたきをせずに見つめていたいけどやっぱり、瞼は閉じては開くことを繰り返す。
「どうした? 」
優しげに問いかけてくる。
大きな手がやんわりと髪を撫でてきた。
くすぐったくて、笑ったら、
「誘惑してるんだ。
そんな潤んだ目で見られて平気でいられると思ってるの? 」
時折顔を出す彼のもう一つの顔に、心臓がばくばくと音を立て始める。
嫌じゃない。
男を感じさせる姿は、どこまでも心を揺さぶり惑わせるのだ。
「目を閉じずにいたらずっと見つめていられるでしょう? 」
誘惑しているつもりはなかった。ただ、正範さんを見ていたくて。
どんな表情をしているんだろうって気になったら、
食い入るように見てしまっただけ。
「それが誘惑しているっていうんだ。
理紗みたいな可愛い女の子にそんな表情で見られたら、たまらないよ」
骨ばった指の感触を頬に感じる。
撫でてはさすり首筋を這う。
「たまらない? 」
「僕の物にして、この腕の中にずっと閉じ込めていたくなる」
彼の眼差しが、甘い熱を帯びている気がして、ぞく、と震えた。
指先を包み込まれて正範さんの頬に押し当てられる。
真面目な顔で、ドキッとするようなことを言うものだから
動揺してしまう。
彼の一挙手一投足に囚われて動けない。
「好きだよ」
「はい。私も正範さんが大好きです。
あなたの物にして下さい。
不安なんてかき消すくらいいっぱい愛して。
彼のシャツに指を添わせる。
頬をすり寄せたら、耳元で「これ以上狂わせないでくれ」
と少し苦しげに言われて、不思議に思った。
そっと重なった唇が、次第に熱を高ぶらせていく。
意識がぼんやりとしかけた頃には、とっくにベッドの上に下ろされていて彼を見上げていた。
首に腕を絡める。
頬に首筋に降り注ぐ口づけは、性急に身体の奥を目覚めさせていく。
狂ってるのは、きっと私もだ。
彼が与えてくれる気持ちや、この熱をいつだって欲しがってやまないのだから。
キスと指先から与えられる感覚で吐息が乱れる。
媚びてしまう浅ましさには目をつむり、求められる悦びに翻弄された。
見上げてくる彼をこっちが抱いてみたりいつもと違う姿を見ることができて、嬉しい。
私から求めることだって、時にはいいのかもしれない。
指先を繋ぎ、キスをしながらもつれあって、
彼の腕の中にいるだけで夢心地だった。
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