first impression



「僕は室生優。君は?」
今日は高校受験でこの場所にいる。
とりあえず、偶然隣に居合わせた女の子に挨拶した。
初めましてと。
「初めまして。私は永月伊織よ」
意志の強そうな眼差しが僕を射る。
照れたように笑って彼女が手を差し出した。
思えば、これが僕と伊織の始まりだったのだろう。

緑鮮やかな5月を迎えた頃。
僕等は友人としてかなり親しく付き合うようになっていた。
互いの家へ行き来し、同性の友人と変わらない付き合いの中、
いつしか恋心が芽生え始めていた。
強くて鮮やかな伊織を瞳に映す度、心が掻き乱された。
恋は切なさと苦しさを両方伴う物なんだね。


優の第一印象は、目が澄んでて今時こんな子が
いるんだと驚いたわ。まだ何にも染まってない感じ。
周りに流されて自分を失くしちゃう子達が多い中で
彼は異質な存在だったかもしれない。
ごく自然に、友情が恋に変わっていった。
告白したのは私だけれど、単に順番が入れ替わっちゃっただけなの。
私に答える形じゃなく彼も想いを告げてくれたから。


友達から抜け出して、恋人になったのは、
手を繋いだあの瞬間から。
温かく柔らかな物に包まれて、陽だまりにいるみたいだった。
微笑み合い、同じ速度で歩いて。
ずっとそんな日々が続くとばかり思っていたけれど、
上手くいかなかった。
病は彼をゆっくりと蝕み始めていたのだ。

高3の夏、彼が倒れ、伊織は白い部屋で
最後まで一緒に過ごした。
看病ではない。
同じ時を刻んだ。
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