もうはなさない



 



 どくん、うるさいほどの心臓の音が響いている。
 夜の静寂。
 ベッドサイドのランプという仄かな明かりだけの部屋で、私達は向かい合っていた。
 今日は誕生日プレゼントを受け取る日。
 彼が暮らしていたマンションに訪れてから七か月が経とうとしている。
 あの日、彼は安易に避妊薬を飲もうとした私をこんこんと諭し、
 飲むことを止まらせた。今日までの日々を思えば彼の誠実さに従ってよかったのだ。
 あれから幾度も抱かれたけれど、
彼はちゃんと避妊をしてくれ、  私を無碍に扱ったりしなかった。
そんな彼だからこそ、抱かれることを望んだのだ。
 そして、共に暮らし始めて、私の誕生日が訪れる少し前、
 プレゼントをくれるなら、直に抱いてほしいと告げた。
 もう、我儘じゃないと感じたから。
 今日は、土曜日。そして明日は日曜日だ。
 もうひとつの誕生日プレゼントが、待ち遠しくてたまらなかった。
形のあるプレゼントも、もらっているのでこれは私自身の欲から来る願いだ。
 彼は、私の願いを聞いて、挑戦的な言葉で了承してくれた。
 ふわ、髪を撫でられる。鳴り止まない胸のときめきが、わだかまっていた。
 頬に触れる手の平を取り、寄り添う。
 彼は後ろから私の腰を抱きしめている。首筋にかかる吐息にぞくりと震えた。
 薬を飲み始めて一週間、いよいよこの日が来た。
 少し遅れた誕生日プレゼントだけれど、私だって
 さすがに、生理中に抱かれたいとは思わない。
「20歳の誕生日おめでとう、沙矢」
「ありがとう」
 にっこり笑ったら、青が真面目な口調で話し始めた。
「直で繋がりたいなんて言われて嬉しかった。
 あの月夜の晩も見かけに反して大胆なお前に驚いたが」
 かあっと、頬が熱くなる。
「何度も言うが、お前が薬を飲んでいても
 俺はつけるのをやめるつもりはない。薬は避妊以外に効力はないし」
 彼の言葉に、胸が騒ぐ。
 お医者さんから話を聞いて理解したつもりだったけど
 やっぱり、危険性はゼロじゃなくて、私の身を案じてくれている。
 じわ、と胸が熱くなり、自然と涙がこぼれた。
「無理して飲まなくてもいい。辛くなったら、すぐやめてくれ、な? 」
「うん」
「今日だけは、期待に応えるよ」
 彼の言葉を聞いて、頷く。
 私ももっとちゃんと考えなきゃ。
 テーブルの上に置かれたお酒が目につく。あれって、ブランデーじゃ。
 じっと目を凝らして見ていると、
「あとで、やるよ」
目を眇めて彼が微笑んだ。
「……酔ったら介抱してくれるの? 」
「ああ、もちろん」
 にや、意味深な笑みを浮かべた青に、きょとんとする。
「酒に酔う前に俺に酔わせてやるから安心しろ」
 とんだ殺し文句だ。
「私以外にも言ったことあるの? 」
「答える質問は一つだけだ」
 口元を歪めた青に、むっ、と口をつぐんだ。
 半眼で睨むと宥めるように彼が頬に口づけてくる。
「怒るなよ。怒った顔も綺麗だけど」
「茶化さないで」
「お前にしか言ってないよ。どう思われてるか知らないが、
 そんな簡単に吐いたら安い言葉になるだろうが」
 肩に頬がこつん、とあたる。そのまま体が反転させられ、
 ベッドに横たえられた。
 髪を撫で、手が頬を包む。私も両手を伸ばして彼の頬を押し抱いた。
 驚くほど綺麗で、整った造作が目の前にある。
「使い捨てが効く都合のいい女なんてたくさんだ。
 お前は、そうじゃないから」
 間近で見つめ合う。
「こんなにも長い間一緒にいたのは、沙矢しかいない。
 抱いた女は多くても深い感情を伴って、
 付き合ったのはお前以外いないんだ。
 虚しい夜を埋めるだけの存在ではなく、
 居場所となったのは沙矢一人だ。
 素直に自分の気持ちを告げようと決意してからというもの、
 お前が愛しくて仕方がなくなった。
 傷つけるように、抱くことでしか自分を示せなかった愚かな俺を許してくれるか」
 ぶるぶる、と頭を振る。長い髪がシーツの上でぱらぱらと散る。
「嘘ついてるつもりだったんでしょ。知ってるわよ」
 強気に出ても彼は、私を突き放さないし、決して不快には思わないだろう。
「生意気な唇を塞いでやらなければいけないな? 」
「ん……ふ……ぅ」
 いきなり舌を絡められ、激しく吸われる。
 幾度も往復する熱に眩暈がする。首を仰け反らせて、堪える。
「や……待って」
「激しく、淫らに絡みたいって言っただろ」
「あのメールをくれてから、日が経っているし私達その間抱き合わなかったって言うの? 」
「常に思ってるんだ。俺を求めて、苦悶して乱れるお前を見たいって」
「な、何言うの」
 吐息を混ざり合わせながらの会話は、至近距離でしか届かないだろう。
 掠れて、途切れがちな声。
 唇が離れた瞬間、息をついた。肩が上下している。
「俺と、混ざり合うのが怖い? 」
 混ざり合う。オブラートに包んでいるようでいて、直接的だ。
 こくん、と頷きかけてやめる。
「私があなたを求めすぎてしまうのが分かるから怖いのよ。
 直でなんて繋がったら、もう歯止め利かなくなりそうで」
「俺は期待に打ち震えてるよ。欲しくて、たまらない。
 好きだよ沙矢」
 背中を強く抱かれた。
「青……」
 涙で震える声で名を呼ぶ。
 大切な恋人の名前を。
「沙矢、愛してる」
「青、私もあなたを愛してる」
 ぎゅ、と抱きつくと広いベッドに身が沈んでいくのを感じた。
「抱いて……」
 彼の纏うシャツの背中に爪を立てた。
「眠れるなんて思うなよ」
 挑発に、瞠目する。震える胸。
「抱き殺してやるよ」
 大きなベッドは、二人分の体重を受け止めてもびくともしない。
 キングサイズのウォーターベッド。
 波に揺られて海に沈んでいくのだろうか。
 角度を変えて繰り返されるキスに応えながら、追憶の欠片を拾い集める。
 まっすぐ射抜くこの眼差しが、あの日、一瞬で私をがんじがらめにした。
 忘れられるはずもないあの夜。彼に初めて抱かれた日。
 文字通り初めてだったけれど、気付けば甘すぎる誘惑に堕とされ、
 切ない胸の痛みを感じて目覚めた。
 ずきずきと体の芯の熱が疼く症状の意味など分からず、
 戸惑い、余韻に浸り。
 やがて抱かれた後、毎度のように起きる現象ということに気づいた
 時には、羞恥と恐れが込み上げた。
 体の中に熱の証が欲しいという欲望だったのだ。
 もっとあなたで私を満たして欲しいという渇望。
 彼と出逢い、知った欲情。
 彼が欲しくて自分から求めたりもした。
 彼を狂わせるくらいの魅力的な女性になる為に
 努力して、お酒を飲んで誘った。
 モラルを忘れたふりをして。
 本当は酔ってなんてなかったことを彼は知っているだろうか。
 私はあなたを愛しているの。
 もっと激しく抱いて。
 何もかも焼き尽して!
 感情が暴走していった。
 抑えていた物を爆発させることを躊躇わなかった。
 あの時彼が冷めてしまう恐れは既になかった。
 冷めるならとっくに冷めてるはず。
 嫌なら捨てて、私の元を去っていたはず。
 でも、彼は私の所以外どこへもいかなくて
 一定の距離間を保って側にいてくれた。
 だったらもういいじゃない。
 私を全て晒しても受け入れてくれるはず。
 奇妙な自信が胸を染めていた。

 そして真実、赤い月の夜から何かが変わったのだ。
 彼は忙しくても毎日のように電話をくれるようになった。
 クリスマスイヴの夜から、急展開だった。
 このマンションを訪れ、共に暮らすことを提案される。
 私は歓喜で胸を震わせ、彼の想いに応え自分の気持ちのままに頷いた。
 夢と見紛う奇跡。
 七か月と少し、ジェットコースターのような勢いで  私をさらった恋。
 お互いの罪を償うために、これから新たな愛を始めよう。
「んん……っ」
 キスは深くて、とことん甘かった。
 切ないあの頃よりも、甘さを増したキスは、麻薬より性質が悪く私を蝕む。
 彼からは、逃れられないと悟ったのは再会した日。
 降り出した雨、車に乗せられ、連れて行かれたホテルの部屋の中で、
 戻れない道へと、突き進んで行った。
 ドクンドクン。
 自分が発する動悸の音が、聞こえてきた。
 沸き起こる新鮮な気持ち。
 本当に、どうなるのだろう。
 その生々しさに狂ってしまうのだろうか。
 熱を返して、奪い合う。
 びりびりと麻痺してゆく身体。
 与えられる刺激は、いつでも新鮮だ。
 この痺れる感覚はいつでも共にあって離れたことはない。
 少しずつ身体の力が抜けてゆく。
 ふわりと軽くなる。
 堕ちるばかりだったのに、いつしか舞い上がることを知った。
 飛び散った羽がなくても。
 びくんと小さく背が跳ねる。
   脱がされながら、ベッドへと押し倒された。
 羽織っていた衣服を床に投げ捨て、覆い被さってくる彼。
 ベッドサイドランプのスイッチがオフになる。
 彼の肩を掴む。
 口づけは繰り返される。
 肌同士が触れ合い、その熱さで一瞬意識が遠のいた。
「俺でよかった? 」
 キスの合間に彼は、ふと悪戯めいた目を向けてきた。
 唾液がお互いの間で橋を作っている。
「あなたじゃなきゃダメなの」
「安心したよ」
 懐かしいあの香りがふ、と鼻をかすめた。
 再会の夜、私を惑わせたあのコロン。
 ふわりと鼻につく香りは煙草の匂いと混じり、私の身体に染みこむ。
 耳朶を噛まれる。
「……あ……ん」
 柔らかい仕草で舐められた。
 ざらりとした感触が、火をつける。
 耳朶に触れた指先が円を描く。凄まじい色香だ。
 首筋から、鎖骨へと口づけが移り、紅い痕を刻む。
 吸い上げられ、点々と鬱血は増える。
 色づけて、官能の火を灯す。

「大好き……せい」
 クスと笑われて、鎖骨を噛まれた。
「や……あっ……」
 ぞくっとした。焼けた肌が、更に熱を増す。
 行為よりも強く感じさせられ、身体が反応する。
 背中が弧を描き反った。
 ふくらみに手と唇で触れられる。
 頂を避けて、外側から中心へと円を描く。
 やんわりと撫でられた後、激しく揉みしだかれる。
 広がる快楽を止めることは出来ない。
 手と同時に、唇で右のふくらみを愛撫される。
 頂には触れずに、中心から外側へと口づけをついばむ。
 触れて欲しい場所にわざと触れずに、さり気なく私を焦らしている。
 悔しいほど翻弄されてしまう。
 その時、ふと口づけが唇へと戻り、
「あ……っん」
 声にならない声が漏れた。

 首にかけたチョーカーが、肌に触れた。
 青が動くたびに纏わりつき、音を立てる。
 これは、彼の誕生日に贈ったもの。
 決して高価ではないけれど、精一杯の想いを届けたのだ。
 絆の証になればいい。そんな幻想を抱いて。
「ずっと、つけてくれていたの? 」
 気が付かなかったなんて、驚きだ。
 きっと、感じすぎて、気づかなかったのだと思う。
「気がつくほど、くっついてなかったかな」
「……え」
 波に翻弄されたら、何もわからなくなるからだなんて、
 恥ずかしくて言えない。
「寂しいっていうより、それ程俺に夢中だったんだと思うからうれしいよ」
 満足げに笑う彼は、私の肌に触手を伸ばす。
 指の腹に頂を挟まれ、口に含まれる。強い電流が流れ下腹部に伝わる。
 小刻みに動く舌。舌先で転がされ、含まれては離される。
「あ……んっ」
「可愛い声もっと聞かせてくれ。啼いていいのは俺の腕の中だけだ」
 なくって、それ違う意味じゃないの。問い返したくても無理だ。
 胸に受けていたキスが離れ、唇に戻ってきたのだ。
 両の手で胸を荒々しく揉みしだかれ、瞳が潤む。
「もう、イキそうか。早すぎるぞ」
「っ……やあ……っ」
 焦って先へ進もうとせず、ゆっくりこちらを煽る余裕。
 最近の彼に感じるものだ。性急に求めても構わないのに。
 翻弄されるしか、何もできない。
「ふ……ああっ! 」
唇で挟まれた頂が甘噛みされて、離される。
青の体の重みが、遠ざかったのを感じた。
「青……? 」
 立ち上がった彼は、闇の中たくましい肉体を浮き上がらせていた。
 ごく、と喉が鳴る。
「愛する故に暴走してしまう。こんな俺でも受け入れてくれるんだろう」
 青の低い囁きが、落ちてくる。
 暗い部屋でも物の在り処を把握しているから動けるのだろう。
 彼はテーブルの上に置いてあるブランデーをグラスに注いだ。
 用意していた氷を無造作に落とす。
 から、んとグラスを揺する音。
 彼は一口飲み唇を滑らせて、一気に口の中に流し込んだ。
 私は、ぼやけた視界の中それを確認する。
 唇から零れ体に伝い落ちる様子に息を飲んだ。
 彼が、笑った気配。しっかり見えなくても分かる。
 息遣いも聞こえてくるくらい二人が醸す音しか聞こえない。
 ベッドに肘をついた青が、激しく口づけてくる。
「っ……ん」
 流し込まれるアルコール。度数の高さは喉を焼く熱さで分かる。
 彼の口の中でほとんどは飲み込まれていて、私が飲んだ量はわずかだけれど、
 あの日飲んだワインより更にきついお酒で、眩暈を感じ始める。
「……熱……っ」
 零れ落ちた琥珀の液体を彼が舌で舐め取った。
「ん……くっん」
 意地で飲み込む。
 アルコールによって、体の火照りが増したのは確かだ。
 青は、自らの唇に滴った液体を舌で舐めて、覆い被さってきた。
 額から、頬、首筋を辿り、鎖骨へと順にキスが落とされていく。
 顔以外には、ちくりとした痛みと共に隈なく赤い華が散る。
 激情を植えつけていくようだった。
 腕やお腹、腿の内側に唇が掠めた時は、声にならない呻きを上げた。
   赤いの痕をなぞるように、彼の指が滑る。
 うつ伏せに体を反転され、再び愛撫が始まる。
 背中に、唇が当てられる。啄ばみ、強く吸われている。
 背中のくぼみを指ですっと上から下へ、下から上へ辿る。
 見えない指の動きは体が、感じ取っていた。
 背筋が震え、腰が浮く。
 彼の体が重なりその重みと体温が伝わる。
 ざわめく意識。じれったくて、身じろぎする。
 体に触れる彼の焦熱は、硬くそそり立っている。
 研ぎ澄まされたナイフのようだ。
 仰向けられ、長い指が、秘所へと攻め入ってくる。
「あっ……ああ……ん……」
 漏れた声に、自分でもびくりとする。
 ふるふると、首を振る私の唇を彼はキスで封じた。
 胸を揉み解される。
 指で頂を押さえ、掌で包みこまれる。
 右腕は腰に手を回し、支えて。
 秘所から溢れ出る蜜が、蕾に擦りつけられた。
「ひゃ……っあ」
 指の出し入れを繰り返し、内側の部分に円を描いて掻き回される。
 ぴちゃぴちゃという湿った音が、寝室に木霊する。
「……っ……あぁん」
 一瞬意識が飛んだ。
 シーツを掴んだ指先が、震えている。
 達してしまった。
 腰が、揺れた。目を瞑って、待ち受ける。
 指が引き抜かれる時、水がこぼれる音がした。
「波に乗るか、飲まれるかお前次第だ」
 あの邪笑。
「ん……来て……早く」
 切羽詰まった声で彼を呼ぶ。
 背中を抱かれる。秘部に当たる大きさに戦く。
 かあっと、心も体も熱が迸る。
 すぐには、中に入って来ずに入口を擦り叩く。
 濡れた場所と擦れて、弾ける音がする。
「最高だ、沙矢。お前を直接感じて、今にもイキそうだ」
 頷く。同じ気持ちだった。
 蕾に擦れる度に、芯が疼く。
「や……あん」
 大きく足を開き、彼を誘う。
「飲み忘れても、いいからな。
 もし、体調に違和感が出たらすぐ言えよ。
 無理をしてまで直接繋がらなくてもいいんだから。
 お前と子作りするまでは」
「……分かった」
 ぬめる感触と共に、飲み込んでいく。熱さとたくましさ。
 青の言葉を胸にかみ締めて、背中に腕を回す。
 ゆっくりと腰に手を這わせて掴んだ。
「く……うっ……あ」
 奥まで、一気に貫かれ、甘い悲鳴を上げた。
 彼は、息が乱れた私の体をきつく抱擁した。
 瞳から、じわりと涙がこぼれる。
 彼自身の近さと凄まじさが、こんなにも嬉しい。
 繋がり、抱きしめ合った状態で
 動かなかったことなんてなかったのではないか。
 うっとりと、青の肩にしがみつく。
「っああ……! 」
 余韻に浸る間もなく、彼はいきなり動きだした。
 中を掻き混ぜられ、水音が大きくなる。
「ああっ……」
 突き出されるように揺れる胸を揉まれる。
 深いキスを交わし、彼が同時に律動を開始した。
 掴まれたふくらみは、何度となく形を変えた。
「やばい……な」
「ど……うしたの」
「いつもよりせり上がってくるのが早いんだけど、  どうしようか」
 何だろう。今のしゃべり方。
(問うようでいて自己完結してる)
 私の奥を貫く彼が、一段と大きさを増している。
「堪えがたいほどの快感だ。少し怖いくらい」
 怖いのは私の方じゃなかったの。
 青は、自嘲して、動きを変えた。
 触れては、離れ、また触れる。
「くっ……」
 青が眉をしかめ、私を激しく突いた。
 ふくらみが、唇に含まれる。啜る音がして、滴が肌に垂れたのに気づく。
 歯の間に挟まれ、甘く噛まれる。
 私は彼の体の下で悶える。
腕をついて絡んでくるから、逃がしたくなくなる。
 往復され、擦れる。
 膨らんで、硬くなった蕾を指の腹が押しつぶした途端、鋭い快感が駆け抜けた。
  「っ……青!」
 声ともつかぬ声で彼を呼ぶ。
 ぎゅ、と背中に腕を回す。意志を込めて。
 望みを受け止めてくれた彼は、最奥まで突き上げた。
 一度、出てから、もう一度埋めこんで、突かれる。
「ああ……せい……せい」
「沙矢……」
 吐息が混ざり合う。
 どくん、滴が弾ける。
 青は、熱い飛沫を中へと吐き出した。
 終わることを知らないかのように、それは続いた。
「青……っ」
 意識が、焼き切れる寸前に彼の名前を呼ぶ。
 耳元に落ちた言葉は、私の名前で、それを聞いて
 安心するかのように闇へと意識を解き放った。


 髪を梳かれている。
 互いの汗で、湿った体を隙間なく密着させていた。
 恐ろしいほどの生々しさ。
 息吹を感じた時びく、とした。
「……もぅ」
「何が」
「とぼけないで……っや……あ」
 勢いよく跳ねたのだ。
「お前のせいで、俺はちっとも休めないじゃないか」
「何で私が悪いことになってるの」
「絡みついて離さないのは、そっちだろう」
「なっ……何言ってるの! 」
 ぐ、と肌を押しのけて、どうにか青の体から逃れようとするが、力が及ばない。
 腰を抱きこまれている。
「これからが俺たちの新たな始まりだな」
「……ええ」
「俺の所へ来てくれてありがとう。もう二度と離さないし
 捕まえておくから覚悟しとけよ。逃げようとしても無駄だからな」
 とどめを刺され、息を飲んだ。
 最初の部分だけでいいのにどうして、こうもドSなの。
「私も逃げないし逃がさない」
「じゃあ、もう一回いいってことだな」
「どうして、そうなるの……っ」
「我慢してたんだろ、今まで」
「……っふ」
 甘いキスに、くらりとする。
「ご褒美くれよ、飽きるほどに、いっぱい」
 再び、動き出した彼に、私の体は素直に応じている。
 体は弛緩し、乱れたシーツには愛し合った後が残されている。
「もう……無理よ……っ」
 クスと笑われ、口づけが降る。
「マジで、怖いな。病み付きになるよ。まったく」
「あああっ」
 貫かれて、仰け反る。
 抱き上げられた腕の中、私は、また意識を手放した。
 お酒よりも彼に酔わされた。嫌になるほどに。
 



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