こればかりは他人に見せられない。
見せてしまうくらいなら死んだ方がましだ。
泣けないよりは泣けた方が人間として幸せなのだろうが、
涙は心の中に溜まった切ない感情を表現する為のものなのだ。
見せたが途端、心を探られる恐れがある。
悲しみ、怒り、悔しさ、喜び。
涙は色んな感情を外に出す。
俺に涙なんてあるのかと、驚いたこともあるが、
人間の良心が欠片でも残ってたのだろうなと
納得することにした。
今までの人生の中で泣いたのは、
母が死んだ時、隠れて泣いたことと
彼女と再会して抱き合った朝の2回だけ。
前者は、行き場のない想いをどうしたらいいか分からなくて、
やり切れなさに涙を流したのだ。
本当は悲しかったのに、告別式の時も涙一つ流さなかった。
いや流せなかったのだ。
あまりにも突然すぎて
悲しみを受け入れる覚悟が胸にできていなかったから。
そして、彼女と再会して抱き合った朝、
泣いてしまったのはきっと
もう一度会えて嬉しかったんだろうな。
傷つけて逃げるように彼女の元を去って
後悔していたから、また会えて夜を過ごせて
途方もなく心が満たされたのだと思う。
すぐには気づかなかった辺り、俺も馬鹿だがな。
あの朝、俺は涙を煙草で隠した。
いつもよりペースが速く1箱吸ってしまった。
眠る彼女を気づかう余裕などそこにはなく
好き勝手に煙草を吹かしていたんだ。
他人の身体に悪影響を及ぼすことなど考えず。
一時期、止めようとしたこともある。
彼女に『やめないで、貴方が煙草を吸う姿を見るのがすきなの』
なんて言われて止めない事にしたが。
お前が俺のせいで死ぬのは耐えられないんだ。
そうなると自分が許せなくて、柄にもなく、
泣きつくしてしまうだろう。
感情のやり場もないままに。
その時を最後に涙を捨ててしまうだろうが。
いつの間にこんなマイナス思考になったのか。
共に明かした夜の時しか、側では吸わないじゃないか。
車では吸うのをやめたし。
それだけ不安に感じているのかもな。
彼女を失ってしまえば、自分を失くして
何もかも壊してしまうのが、目に見えているから。
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