sugary trap 2



時に悪戯をしてみたくなることがある。
 可愛い恋人は、強がりながらも従順だ。
 短縮から、絢の番号を呼び出し、電話をかける。
 何度か、虚しく発信音が鳴り響いたあと、
 聞き慣れた愛らしい声が、耳に届いた。
「高遠さん…… ? 」
 名前が表示されて分かっているだろうに、彼女は曖昧に訪ねてきた。
くすりと、笑う。
「絢、今、平気? 」
「……別に構いませんよ」

 衣擦れの音が、電話越しに聞こえた。
 ベッドの上で、壁に背中を凭れさせているのだ。
「絢の声が急に聞きたくなったんだ」
「おかしな高遠さん。そんなに会ってませんでしたっけ? 」
 ふふっ、と笑われ、ああ本当にこの子が好きなんだと再認識した。
「ほんの短い時間でも君と共有できたら嬉しいんだよ」
「本当ですか? 」
 彼女は、自分がこの後何を言われるのか想像すらしないのだろう。
 ただ、嬉しそうに問い返してきて、小さく笑った。
 つばを飲み込む。
さあ、どう切り出してやろうか?
「そうだ」
「はい? 」
「絢……自分でしてみて」
 疲れのせいで、声が掠れているのだが、
 絢にはいい効果をもたらしたようだ。
 動搖を滲ませた声が聞こえてくる。
「っ……できません」
「どうして? 俺の前ではしてくれたじゃない」
 大胆な彼女の振る舞いは、扇情的で、いつもにも増して美しく目に映った。
 すぐに、突き入れて、彼女の中で果てたいという衝動さえ感じたほど。
「……高遠さんもするのならいいです」
「先に絢が、してる様子を教えてくれなきゃ、やる気起きないよ」
 意外な返しに、一瞬呆けるも、ここで彼女の思うがままになるわけにはいかなかった。
「約束ですよ……」
 か細い声に、わずかな罪悪感を覚える。
 それでも、聞こえてくる乾いた音に、唾を飲む。
 脳内に鮮やかに浮かび上がったのは、華奢な肌を露わにしていく絢の姿。
 操られるままに衣服を脱ぎ捨てる絢に、俺は興奮していた。
 顎で支えた携帯電話をそのままに、ベルトを外す。
 「んん……っ」
 声を抑えているからこそ、逆に艶めいて聞こえた。
 音がない静かな部屋には、絢の声だけが響いている。
 その時、己の欲が、勢いを増したのを感じ、正直なものだと呆れ笑った。
 生地を押し上げる熱塊に、手を触れてみると、
 今すぐ、彼女の中に入れそうなほど準備が整っていた。
 だが、ここには絢はおらず、電話越しに声を聞きながらというのも
 たまには風情があっていいと思うことにした。
 水音が聞こえてくる。
 あまりにも微かで聞き逃しそうだったが間違いはない。
「ああっ……ん」
(絢……っ)
 はちきれんばかりに立ち上がった熱塊を手で包み、自らの手で擦り上げた。
 息が上がり、焦燥が高まっていく。
「高遠さん……っ……あ」
 彼女は、シーツに沈んだらしい。
 淫らな姿で、小さな体を丸めた姿が、ぱっと脳裏に浮かび、
 知らず、手が、分身を擦り上げていた。

「絢……っ」
 程なく、溜まりきった熱がせり上がり、達した。
 脳内で絢を、抱いて、果てた。その証拠に、
 何度も白濁を拭うことを余儀なくされた。
「最高だったよ」
 余裕ぶってつぶやく。
 こちらのことにまで気は回らないはずだ。
「馬鹿……」
 可愛らしい悪態に、笑みが浮かぶ。
 早く本物に逢いたいと思った。
 一緒にデートして、この部屋に連れてきて、
 飽きるほどに抱いて、眠れればいい。
 



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