おでかけの最後は、スーパーに寄って食材の買い出しに向かった。
 買い物のメモ通りにてきぱきと籠に入れていく。
 青は、高い位置にある商品も楽に取ってくれ、
 何も言わずとも、カートを押してくれる。
 女性に優しいのは当たり前で、彼にとって当たり前のことなのだ。
「青って、ほんとうによく気がつくのね」
 見上げると、フッと彼は笑った。
「プライベートで優しくするのは、お前にだけだよ」
「うわ。本気で言ってそうだから怖い」
「本気に決まってる」
「あの方、お知り合い? 」
 向こうから手を振って近づいてきた女性は、赤ちゃんを連れていた。
 乳母車(ベビーカー)の中で眠る赤ちゃんはとてもかわいらしい。
 後ろには旦那さんらしき人がいる。
 私が頭を下げると、女性は会釈を返してくれた。
「こんばんは、藤城先生もお買い物ですか? 」
「はい。大きくなりましたね」
「生まれてから六ヶ月ですね。その節はお世話になりました」
「お母様も赤ちゃんもお元気そうで何よりです。
 私も将来、こんな子供がほしいですね」
 衝撃を受け、彼を見上げてしまった。
 さらっと、他人にこういうこと言う人だったの!
「先生のお子様は、すごく可愛いんでしょうね」
 奥様もお綺麗な方ですし」
「いえ……あの」
 恥ずかしくなってきて言葉を挟みかけた時、彼が、手を握ってきた。
 意志が感じられる強い力だ。
「婚約者(フィアンセ)ですから、もうすぐその呼び名で呼ばれるようになりますね」
「は、はい。そうです」
「まあ。お幸せに」
 女性に言われ、頬を染めた。
 軽く目礼すると彼女は立ち去っていった。
「どう反応していいかわからなかったわ。
 口が上手いんだもの」
「口が上手いんじゃなくて事実を言ったんだろう」
「こんな子供がほしいというのは、社交辞令? 」
「お前との近い未来を想像したら自然と口から出た」
 若干照れくさそうに、ぼそっと言う彼が可愛くて、うふふと笑ってしまった。
 買うものはすべて籠に入れたのを確認したのでレジに向かう。
 支払いを済ませて、駐車場に戻ると、彼は後部座席に買い物したものを積み込んでくれた。
 お母さんに狭くてすみませんと言ったのは、車が小さいのではなく、車内が狭いからだ。
 4人乗りタイプだが、運転席か助手席を開けないと後部座席には乗れない。
 車へのこだわりは彼の譲れないものの一つだ。
 お互いに車に乗り込み、シートベルトを装着した。
「この車とはもうすぐお別れなのよね」
「そうだな。あとひと月くらいか」
「……その、えっと車内は綺麗にしておきましょ」
「何も痕は残ってないが? 」
 含み笑いだ。車の中で愛し合ったのも記憶に新しい。
 なんで、こんなことばかり思い出すのよ、もう。
「相変わらずの七面相だな。どれだけ笑わせてくれるんだよ」
「言うほど表情変わってないわよ」
「こういう顔だからしょうがない」
 時には私を見て吹き出したり、クールなだけではないのがわかってきてほっとしている。
 大人っぽくて隙がない青も好きだけど、人間らしい一面を見せられてより惹かれるのを感じた。
 マンションにたどり着いて、それぞれ入浴した後、二人で台所(キッチン)に立った。
 彼は長年の一人暮らしで、家事にも慣れているし、当然料理も上手だ。
 自炊していたのは意外だったが、藤城家で育ったらありえるだろうと思った。
 普通に洗いものしていたものね。
「お坊ちゃまらしくないかも」
 まずい。口に出ていた。
「何か言ったか。あ? 」
「な、なんでもありません、青さま」
「お前に様づけされると嗜虐心が刺激されるな」
「だって、陽香が言ってるの真似したいなって常々思ってて」
「正直なのは美徳だな。さーや」
 口をぱくぱくさせる。
 彼は喋りながらも、手際よく包丁を使い鍋に材料を放り込んでいた。
「藤城先生って、呼ばれてるの初めて聞いたわ」
「……そうか」
「私も頑張らなきゃ! 藤城先生の奥様になるんだもん」
 気合を入れた私に彼は、優しい眼差しをくれた。
 さっきまでの気迫はどこかに消え失せている。
「大丈夫だよ、沙矢なら」
 椅子に座った彼はこちらに向いて微笑んだ。
 私は彼に笑いかける。
 食べる野菜のスープ。
 ポトフに、愛情という調味料を加え完成させた。
「明日はカレーにしようね」
「ああ。そうだな。ところで、さーや? 」
「な、急に愛称で呼ぶの? 」
「そのエプロン、可愛いな。胸元を強調か? 」
「可愛いだけにしてよ。すぐそんなこと言うんだから」
 このエプロンを着けた時何も言わなかったのに、今頃ふいうちだなんて驚いた。
 赤地に、胸元にピンクのファーでハートが形作られたデザイン。
 着てみると可愛くてすっかりお気に入りになった。
「エプロンよりも着ているお前が、可愛いんだけどな」
「そ、それはどうもありがとう」
 殺し文句にはだいぶん耐えられるようになった。
 心臓強くなったものだわ。
「食事を終わったら、それ着て寝室に来い。服は着るなよ」
「……わ、わかりました」
 夕食を食べた私は、衣服を脱いで下着の上にエプロンを着けた。
 嫌な予感がしながらも、素直に寝室に向かう。
 寝室では間接照明の中、ますます妖しさを増した男性が一人待ち受けていた。
「青……」
「とんだ小悪魔だよ、お前は」
「こんな格好させたの青でしょ。服の上から着るものなのに」
 むっ、と睨むが、華麗にスルーされる。
 くい、と指で手招かれて、彼が腰を掛けている目の前に立った。
「へえ、生地も滑らかなんだな」
 ふわ、と抱えられ膝の上に降ろされる。
 肩から足までのラインを大きな手がなぞる。
 下着しかつけてないので、膝丈のエプロンの下は素足だ。
「今度から、この格好で料理しろよ」
「寒いから無理よ」
 この格好で台所に立ったら明らかにおかしい人だ。
「裸にエプロンなんて、ハードル高いわよ」
「さすがに、それやられたら料理じゃなくてお前を先に食べるな」
 絶対にしそうだ。
「大胆にベビードールを脱ぎ捨てたのは俺の誕生日だったか」
「過去を振り返るのはよくないわ」
 あの時の私は、この人が欲しくて、何も見えなくなっていた。
「現在(いま)と未来(あした)しか、見なくていいな」
 大きな手がお尻を弄(まさぐ)る。
 左右を指先が、くるくると行き来し、ぞくっとした感覚が走った。
 感じている顔を悟られないために声を殺すが、
 同じ動きで、ふくらみを触られて、息をつめた。
「っ……」
 肝心な場所には触れずに指先は、ふくらみの上、鎖骨、首筋を這いまわる。
 緩慢な仕草に、歯がゆさを覚える。
 朝なんて、それこそ先へ進むかと思ったが、今は逆で、
 本当に、抱くつもりがあるのかどうか疑問に思うくらいだ。
 焦らして楽しむ余裕に、驚く。
 指と唇で体の熱を着実に高めていっている。
 そんな彼が闇の中こちらを見つめていたのに、気づいた。
(……キスしろってこと? )
 無言の命を理解し、自ら唇を重ねる。
 首に腕を絡めすがりついた。
 甘えているみたいだと思い、ぶるぶると頭(かぶり)を振る。
 軽いリップノイズ。
 お互い小鳥のさえずりのキスで、しびれを切らした頃、どちらかがため息をついた。
「んん……っ」
 舌を絡め、もつれ合わせる。
 息を弾ませて、私の胸のふくらみも弾んだ。
 否(いや)、彼に揉みしだかれたのだ。
 器用に探り当て、頂きをつままれる。
 皺になるエプロン。
 彼の手がもどかしげに、エプロンの上から下着を外す音がした。
 あっけなく脱がされ、床に無造作に放られる。
 窓辺で抱かれた時の再現みたい。
(ヤらしいんだからっ)
 腰元のリボンを解かれ、エプロンが中途半端に開(はだ)けられた状態になる。
 空気に触れて、胸の尖りが、ぴん、と硬く立ったのが分かった。
「いつからこうなってた」
 今だと応える間もなく、新たな攻めに翻弄される。
 頂きは、唇にくわえられ、長い指は、私の秘所を侵食し始める。
「しっかりほぐれてる」
「っ……や……あっ」
 蕾は赤く充血しているだろう。
 油断していた私がいけなかったの?
 頂きの上で、舌が小刻みに動く。
 もう片方は大きな手に包まれて激しく揉みしだかれる。
「んん……そんな……ああ」
 自分でも何を口にしているのかわからない。
 大きくふくらんだ彼の欲望が、生地越しにあたり、身を震わせる。
「どうした? 」
「な、何でもない」
 陥落してしまう自分を認めたくなくて抗う。
「お前の涙は綺麗だな」
 ぺろり。舌が眦(まなじり)の涙をすくい取る。
「泣いてなんかないもの」
「お前が強がると、そそられてたまらない」
「いじわる」
「ああ……そうだよ? 」
私があなたを意地悪だと思うのは何度目だろう。
 自分をさらけ出して愛し合えるようになってからずっとかもしれない。
「でも、お前を抱きしめると優しくしたいと思う」
 いきなり抱きしめられ、うめく。
 背中に回った腕からは愛が伝わってきた。
「っ……青って触りたがり? 」
「お前の至る所を暴いて俺の物だって証を残したい」
 エプロンが、完全に脱がされ、一糸まとわぬ状態になった。
 枕の横に手をついて、彼が私に覆いかぶさってくる。
   ふくらみの周囲を旋回する指と唇。
 明日仕事だけど、ブラウスの襟で隠れるから、たくさん痕をつけている。
 全身に赤い花びらが散っていく甘い痛みにうっとりと瞳を閉じる。
  「ねえ、抱いて。私、青がほしい」
「可愛いおねだりに免じてやるか」
 言わせたかったんでしょ。
 朝から、悶えさせ続けて、自分も強がって。
 私の上にまたがって、パジャマを脱ぎ捨てた。ばさりと音が響く。
 闇の中に、優美な裸身が浮かびあがった。
(なんて、綺麗なの。適度に鍛えられていて、絶妙なバランスを保っている)
 快楽に酔わされず、彼の裸を見つめられる機会も貴重だった。
 いつも、一度のぼり詰めた後、彼を身の内に感じているもの。
 ちゅ、軽く頬にキスをされ、今度は唇にキスをされる。
 舌が、無遠慮に口内を暴れて、私は頭が真っ白になった。
 一応待っていてくれたらしい。
 準備を整えた彼が、勢いよく貫いてきた。
「っ……ああっ」
「沙矢……、好きだよ」
 視界が揺れる。硬いモノが、奥に押しつけられて離れる。
 肌の上に落ちてくるしょっぱい雫は、彼の汗。
「ずるい……っ……正気のままあなたを受け入れたかったの」
「着けるところ見ると顔赤らめるくせに」
「まじまじと見たりしない……もの」
「一回、イッた方が楽じゃないか」
「考えたことない……」
 背中に回した指が滑る。
 熱い。
「俺はお前を抱けることが、何よりの歓びだよ」
「ん。愛いっぱい感じるわ」
 彼の指先が髪をなでた。汗ばんだ手が髪に絡む。
 彼は私のナカで動きを止めたままだ。もどかしくて、切ない。
「もっと、激しくして……っ」
 優しくなんてしなくていい。
 激しさに優しさがちゃんとあるから。
 懇願の涙をこぼして、彼を欲しがる。
 背中につめを立てたら、うめき声が聞こえた。
「いい度胸だな。いきなり、しめやがって」
「あっ……いやっ……」
 私の膣内(ナカ)で、一気に大きくなった自身を奥に擦りつけ腰を回す。
 快感が増して、びく、びくと背中がはねた。
 叫びとも喘ぎともつかない声が自(みず)から漏れている。
 甘い痺れは次から次へと沸き起こる。
「大好き……っ」
「沙矢っ」
 抱き起こされ、下から突き上げられる。
 彼の方に頬を寄せて、また泣いた。
 涙がこぼれるのは、私も抱かれて歓んでいるから。
「っ……一緒に」
「ああ」
 最後に、大きく彼自身が暴れ狂う。
 一気に高まる感覚に身を任せ波にさらわれた。
 同じ時に、高みにたどり着けることは、愛のなせる業(わざ)なのだと思った。
 



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